櫛木理宇

■ 『世界が赫に染まる日に』

投稿日:2017年6月7日 更新日:

はじめに

世界が赫に染まる日に 櫛木理宇 あらすじと感想(ネタバレ). ストーリーが面白い作品は、読んでいても全然飽きませんよね。 この本はまさにそんな感じでした! ちょっぴり暴力的な復讐のお話。 その魅力を伝えたいと思います。

世界が赫に染まる日に

読書時間の目安

3時間36分(326ページ)

あらすじ

 ここは夜の公園。 中学3年生・緒方櫂(カイ)は、同級生の高橋文稀(フミキ)と話していた。体育会系のカイと友達がいないフミキに接点はなかった。だが、フミキから15歳の誕生日に自殺する話を聞いたカイは「じゃあ、それまで、俺を手伝えよ」と、とある復讐の話をする。 その復讐とは、カイの従兄妹の未来を奪った加害者に対する私刑であった。 二つ返事で承諾したフミキ。 二人の間には、不思議な契約関係が生まれる。 「じゃあ、予行演習をするべきだね」というフミキの言葉から、本番まで、少年法で守られている犯罪者たちに対する私刑を決行することに。 そこから、この赫に染まる復讐劇が始まった。

ここからネタバレありです。。。

感想

暴力シーンが多いことについて

 この作品に対する評価として、暴力シーンが多いという反応があるようです。 しかし、これは話の性質が「私刑と復讐」なんですから、ある程度までは目を瞑るべきです。 そうではないと、文章から生々しさが伝わらず、印象に残らなくなってしまうでしょう。 それに、暴力シーンは確かに多く描かれていますが、それほど残酷ではありません。 例えばこんな感じです。

 人体において、左右一対なのは眼球だけではない。 櫂は腎臓を狙っていた。 蹴りは何発もつづいた。 何度も、何度も叩きこんだ
 気づけば、栄谷は白目を剥いていた。 ガムテープの隙間から、血と涎まじりのこまかい泡が垂れ落ちている。 すでに意識は断ち切れていた。

p131より

ね? そんなに非道くはないでしょう? これなら中高生とか残酷なシーンが苦手な方でも、十分に読むことができると思います(多分)。

ITリテラシーの話

 新しい狩りの獲物(私刑の対象)を探すのは、もっぱらフミキの仕事です。 携帯電話は持っていないというフミキですが、IT方面には強いらしく、加害者の情報をネット上からあらゆる手段を用いて、入手します。

「…彼らは同級生や他校の生徒たちが見ることは想定していても、ぼくらみたいなまるっきりの他人まで見てるってことは、なぜか想像しないらしい。 ツイッターで犯罪自慢の馬鹿な投稿が絶えないのは、そのせいだ。 想像力が、自分の知ってる世界の範囲内にしかはたらかないんだ」

p106-107より

 これはよくニュースになっている話ですよね。 あとは、リベンジポルノとか…その辺りの話題はトレンドで、作品によりリアルな質感をもたらしてくれるという意味で、とても効果的だったと思います。

フミキの「邪眼」とは結局何だったのか?

 まずはじめに書いておこう。ぼくの左目は、邪眼だ。
 ギリシャ神話のメデューサのように、ぼくに見つめられたやつは石になる。

p45より

 勿論、本当に石になるわけではないです。 そして、隠しきれない中二病感はあるが、本人はいたって深刻にとらえています。 では、石になるとはどういう意味の比喩表現なのか? それに注目しつつ作品を読んでいくと、こんな描写も。

 昨夜ぼくは、公園で新しい相棒を拾った。
 …
 驚いたことに相棒は、ぼくが見つめても石にならない。 こんなのは祖父以来だ。

p68-69より

 どうやら、例外があるらしい。 それはおそらくカイの人格によるものだろうと推測しました。

 邪眼の意味が明らかになるのは、左目が実はママの起こした事故により義眼になったと告白する場面です。

 ぼくを無視するやつはすべて、「この邪眼で石に変えたんだ」と己に言い聞かせてきた。 死んだおにいちゃんや、死んだも同然のぼく自身だって例外じゃない。 やはり石だった。 生きていたのはかろうじて—脳内の住人ではあったけれど—祖父だけだ。
 でも、カイがあらわれた。
 あいつはぼくを無視しなかった。 ぼくに話しかけてきた。 ぼくの、相棒になった。

p281より

 なるほど、つまり、石になるとは、フミキを無視する(もしくわそれに準ずる態度)ということだったんですね。 そうやって、自分に言い聞かせて、今まで生きてきたんでしょう。 とても寂しかったですよね。 でも、カイと過ごしているうちはそのことも忘れられたんじゃないんでしょうか。 フミキにとって、カイは唯一の友達であり相棒。 だからこそ、同情されたくはなかったんでしょうね。

復讐による私刑の是非

 当然、優等生的回答はNO。 犯罪少年少女と言えども裁かれる法律は存在するし、少年院もあります。 自分の犯した罪の大きさも差しはかることができない者に対して、社会復帰を完全に絶ってしまうような刑は、少し過酷なのではないか、という意見。
 僕の意見は限りなくYESに近いNOといったところでしょうか。 責任能力が争点だと思うんですが、今の子供って大人が思っているよりも、世の中のことを知っています。 あらゆる情報が簡単にスマホからアクセスできる社会になったことも大きいと思います。 ですので、僕は、責任能力がないとは思えないのです。 それによって守られ、本来与えられるべき刑が軽減されることは、やはり理不尽を感じてしまいます。 かといって、私刑は犯罪です。 それに、作中でもありましたが、「社会正義」だと誤認してしまうところがあります。 やっぱり所詮、人は人を裁けないし、裁くべきでもないんでしょう。 私刑が認められる社会に住みたいとは思えないですしね^^;

バッドエンドか? ハッピーエンドか?

カイはフミキに庇われ、刑に処されることはなく日常を送ります。 だから、問題なし。 一方、派手に暴れたフミキは植物人間状態です。 でも、少なくとも生きてはいます。 彼のことを思ってくれる人がいることもわかりました。 最後やらかしちゃった分、ダメージは大きくなりましたが、バッドエンドではないと僕は思います。 ハッピーでは決してないけれども。

 みなさんはこの話を読んで、どう思いましたか?

こんな方におすすめ

  • バイオレンスな気分の人
  • 冷たく燃える男の友情に触れたい人
  • 社会学的に私刑の是非を考えたい人

あとがき

 今回は、「世界が赫に染まる日に」を記事にしました。 櫛木理宇さんの作品を読むのは初めてだったのですが、俄然、他の著作も気になりはじめました。 機会があれば、読んでみたいと思います。

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