中村文則

● 『迷宮』著:中村文則

投稿日:2017年7月14日 更新日:

はじめに

中村文則さんの本を読むのは初めてです。

本作は11冊目の作品が文庫化されたもの。

彼の作品は、陰鬱さに定評があると聞いていました。

そのため、根暗な僕に悪影響を及ぼすと考え、敬遠していました。

しかし、それは杞憂でした。

確かに、少し暗いですが、それ以上に作品が魅力的です。

その魅力をなるべくわかりやすく伝えることができればと思います。

『迷宮』

あらすじ

「カラフルな折鶴に埋もれて、全裸で、何かの本質のようでしたよ。上手く言えませんが」

p39

日置事件(通称:折鶴事件)は、1988年に東京都練馬区の民家で発生しました。

日置剛史(45)、妻の由利(39)、そして長男(15)の3名が殺害され、長女(12)だけが生き残ります。

殺人現場は、遺体を囲むように312個の折鶴が色鮮やかに配置されていました。

弁護士事務所で働く新見は、この殺人事件の唯一の生存者である紗奈江と、偶然知り合い、関係を持ちます。

そして、折鶴事件の真相を確かめるため、奔走します。

そこで明らかになる真実と新見の抱える心の闇の行方はー?

感想・考察

まず、僕がこの作品を読んで、いいなと思った点は、さり気ない狂気です。

例えば、

所有して欲しいの。あなたのものにして欲しいの。あなたが私のものにならなくても、私があなたのものになるから。たまに来るなんて嫌なの。もっと可愛がって欲しいの。殺してもいいの。好きなようにして欲しいの。

p94

などです。

これが、中村さんの作品の特徴であるかどうかは、まだ他の本を読んだことがないので、わかりませんが、そそられました。

全てが狂っているわけではなく、狂気が、さり気なく、滲みでている

そこにリアリティがあって、「あぁ、こういう人間、どこかにいるよね」と思わせるところが絶妙なバランス感覚だなと思いました。

 
「迷宮」は、ミステリー要素も強い作品ですが、僕は事件の真相にはあまり興味がないです。

それよりも、「新見はなぜ折鶴事件に関心を持つのか?」、「紗奈江は生き残って、精神的にどう歪んだのか?」というような、彼らの内面について深く知りたいと思いました。

新見は、小さい頃は分裂症気味で、架空の存在”R”を創り出していました。

精神科医の治療というよりも、時間の経過によって、”R”は消滅していったのですが、折鶴事件と関わるにつれて、その人格が見え隠れします。

人を狂わせるような何かが、折鶴事件にはあるのでしょうか?

それは、この事件が、猟奇的である一方、美しさも兼ね備えているからだと思います。

完璧な密室殺人、色鮮やかな折鶴、そして殺された由利の遺体。

人間の本能は美しさを求めていると思います。

それは理性で抑えることができないものです。

強弱は個人差があり、新見は特別、その欲求が強いのでしょう。

そして、結果的に、狂っていく=世間の常識から外れた思考を持つに至ります。

紗奈江の精神は、なかなか複雑だと思います。

その複雑性は、自分の精神を管理するコントローラーのようなものを、彼女が無自覚に手離していることから生じるように思います。

それは、話の結末を読めば、わかるでしょう。

紗奈江の内面について、もう少し考察したいとは思いますが、そうすると完全にネタバレになってしまうので、泣く泣くやめておきます。

ぜひ、本書を手にとって、彼女の心理について思いをめぐらせてみてくださいね!

あとがき

「迷宮」の結末は、完全なハッピーエンドとはいきませんが、まずまず希望を感じさせるものだと思います。

そして、物語性と心理描写(闇系)がうまいこと両立されていた作品だと感じたので、評価は●(4 point)です。

他の作品も、いくつか購入したので、そちらも期待しています^^

それでは。

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