西加奈子

● 『ふくわらい』

投稿日:2017年4月14日 更新日:

はじめに

 今回、感想を書く作品は、西加奈子さんの作品で第一回河合隼雄物語賞受賞作である『ふくわらい』(朝日新聞出版、2012年)です。

 最近は、西加奈子さんの作品をたくさん読んでる気がします。

 ただ、今wikipediaで西加奈子さんの作品一覧を見てみたのですが、こんなに著書があったとは知りませんでした。

 すべてを読破するのはなかなか時間がかかりそうです…。

 でも、それはそれで楽しいですが(^^;

『ふくわらい』

あらすじ

 幼い頃から病的に「ふくわらい」に執着している主人公、鳴木戸定。編集者。

 他人の顔のパーツを、取り外したりつけたりすることは、日常の楽しみ。

 彼女からは、あらゆる感情が欠如していました。

 ですが、プロレスラーの守口廃尊や盲目のハーフ武智次郎との出会いをきっかけに、彼女は大きく変わっていくことになります—。

感想

 この作品のテーマは「感情の萌芽」です。

 主人公である定は、感情のない、まるで平面のような世界しか認識することができませんでした。

 これは、彼女が「ふくわらい」に幼いころから没頭していたことが大きく影響しています。

 そんな彼女は大人になっても、他人の顔のパーツを自由気ままに置き換えて遊ぶことをやめませんでした。

 「あなたたちの顔の、目や鼻や唇を、少し移動させたり、掌に握ったりして遊んでいるのだ。」

 そう言われて、なるほどだからあの視線なのか、と納得する人間など、いるはずもなかった。

 定は友人も恋人もいたことがないので、孤独でしたが、本人がそれを気にすることはありませんでした。

 しかし、定の平面的世界に変化をもたらす存在が現れました。

 守口廃尊と武智次郎です。

 守口はレスラーとして、ステージでパフォーマンスすることだけでなく、定の出版社で発刊している「週間事実」で連載を持っていました。

 ひょんなことから、連載の書籍化のため彼の担当になった彼女は、守口の異形ともいえる顔に非常に興味を持ち、守口やプロレスのことについて熱心に勉強するのです。

 守口はそんな定に次第に心を開いていきます。

 「おいらは、体があればいい。

 なのに、おいらはこうやって『言葉』にすがってる。

 結局、言葉によう。」

 そんな弱音を吐いている守口に対して定はこう言います。

 「守口さんが、体があればいい、とおっしゃたこと、私は、とても理解できるのです。

 自分の体が、自分のものだということ、それを感じるとき、体が震えること、その震えているものも、自分の体だということ。

 顔だってそうなんです、顔だって、自分のもので、体と一緒に震えていて、でもどうして、意思ががあるように思うのか。

 目や鼻や口に、眉毛に、意思があって、その成り立ちによって、その人を変えてしまうような気がするのはどうなのでしょうか。」

 このセリフからは、守口と出会うまでにはなかった、感情が間違いなく吐露されています。

 そして、定は守口の試合を観にいくのです。

 
 武智次郎は、盲目のイタリア人ハーフで、駅で白杖を振り回していました。

 そんな時に、定が声をかけたことがきっかけに武智は定に一目惚れします。

 定のことを何度も美人だといい、毎日電話をかけます。

 「僕が知っている定さんは、初めて会ったときの、優しい、美しい定さんです。

 それがすべてです。

 僕は目が見えない。

 小暮さん(定の友人)のように目の見える人には分からないでしょうが、人が、人を知る、と言うとき、見る、という行為がとても大きいんです。

 僕も、10年ほど前まで見えていたから、分かるんです。

 あの人知ってる、と言うとき、僕は、はっきりその人の姿を思い浮かべていた。

 どんな髪型だったか、どんな目をしていたか。

 でも、その情報が絶たれると、『知る』ということが、どういうことなのか、改めて考えざるを得なくなるんです。

 知るって何だろう。

 今も分かりません。

 だから僕は、自分で自分の『知る』を決めるしか無いと思った。

 僕には定さんの姿が見えない。

 でも、僕の知ってるすべての定さんは、見えている人よりも、もしかしたら小さな世界かもしれないけれど、とても美人で、優しくて、それが大切なんです。

 僕は、優しくて美人の定さんと一緒にいたい。

 短時間しか経っていないし、もちろんその『すべて』は、刻々と変わってゆくし、かといって『すべて』が完成されるときがくるとは思えないけれど、僕はただ、定さんのことが好きなんです。」

 一心不乱に定への愛の言葉をつぶやく武智に対して、定は、なにか恋愛に似たような感情を持っていきます。

 定は結果的にこの2人との出会いから世界の輪郭をつかみはじめることになりますが、これは定が純粋でまっすぐな人間だからこそ、実現できたように思います。

 守口は、定のことを天才と言います。

 武智は、定のことを美人優しいと言います。

 これらの言葉は定の心根について述べているのではないでしょうか。

 
 また、この物語は僕にとって当たり前であった概念を、根本から問いなおさせました。

 体とは、顔とは、すべてとは、言葉とは、知る、とは。

 そうやって、一度、既成概念を自分から切り離し、それを再構築していくこと、まさにふくわらいのように、それが、そのことの重要性が著者が伝えたかったメッセージなのかもしれませんね。

まとめ

  • 定の見ていた平面の世界は出会いによって立体化された
  • 既成概念を切り離し、再構築することの重要性

あとがき

 今回は、西加奈子さんの作品である『ふくわらい』について記事を書きました。

 テーマがけっこう自分と重ねづらいものだったため、感想を書くのはなかなか難しかったです。

 とても奥が深い作品だなあと思いました。

 こういう本は再読してみるとまた違った境地が見えたりするんですよねー。

 機会があればしてみようと思います。

 ストーリーも面白く、登場人物も非常に個性的で、読んでいてとても楽しい物語なので、おすすめの本です。ぜひぜひ読んでみてくださいね^^

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