乙一

■ 『失はれる物語』

投稿日:2017年5月3日 更新日:

はじめに

「目覚めると、私は闇の中にいた」

 今回、感想を書く作品は、乙一さんの『失はれる物語』(角川文庫、2006)です。

 Twitterのフォロワーさんからオススメいただいた本です!

 短編集で、「Calling You」「失はれる物語」「傷」「手を握る泥棒の物語」「しあわせは子猫のかたち」「マリアの指」「ボクの賢いパンツくん」「ウソカノ」を収録しています。

 どの話も面白かったですが、感想は、「失はれる物語」について書いていきます。

『失はれる物語』(2006)

あらすじ

 ある日、私は五感を失った。

 残されたものは、右腕の皮膚感覚と人差し指の上下運動のみ。

 死にたくても死ねないこの状況の中、唯一の救いは妻が右腕に奏でるピアノ演奏と幼い娘の手の感触であったが—。

感想

 この話は、五感を交通事故で失った男の視点で語られます。

 体のほぼ全ての感覚を失いながら、思考だけは常人並にできる絶望的状況。

 妻が定期的に訪れてくれるとはいえ、死にたくなるのは当然だと思います。

 「肉塊」と「人間」の中間のような存在

 死にたいという意思表示さえすることができません。

 この作品は、「安楽死」「尊厳死」といったテーマについて考えるきっかけを与えてくれる作品だと思います。

 
 
 僕は、安楽死や尊厳死について肯定的な見解を持っています。

 なぜなら、自分の体と心は自分のものであり、その生死を決めるのもまた自分の裁量だと思うからです。

 なぜ、死にたいのに、そのことを許してくれないのか。

 確かに、残される人の気持ちを考えることもとても重要なことだと思います。

 しかし、本当に死にたい時は、他の人の感情を鑑みることは非常に難しいのです。

 人はどうせいつか死ぬのだから、そのタイミングを決めるのは自分であっていいように思います。

 みなさんは、これらについてどのように考えますか?

 
 
 この話の男の状況は本当に地獄だと思います。

 でも、きっと現実にこのようなケースは珍しくはないのかもしれないですね。

 植物人間状態の方などは、本当に思考力は伴っていないのでしょうか?

 ケースバイケースだとは思いますが、理性を保ちながらそれを表明する手段を持たない状況というのは、残酷だということがこの話からはとことん伝わってきます。

 僕たちも、もしかしたら、そちら側に行くことがあるのかもしれません。

 そうであるにしても、今ある現状に感謝しながら、淡々と生を全うしていくことしかできないのでしょうが。

あとがき

 今回は乙一さんの作品『失はれる物語』(2006)について感想を書きました。

 絶望的な暗闇の中を覗き込んでしまったような読後感のある作品でした。

 人間の想像力を掻き立てる非常に良い話だったと思いました。

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