はじめに
『ショートカット』 著:柴崎友香 2007年3月 河出文庫より.
彩鮮やかな連作小説集です。
「ビリジアン」を読んだ時と同じような不思議な読後感を味わっています。
あらすじと感想を書きたいと思います。
ショートカット
読書時間の目安
2時間12分
あらすじ
「恋愛」における「距離」という概念を巧みな表現力で拡張した連作小説集。
「ショートカット」、「やさしさ」、「パーティー」、「ポラロイド」という4編から成り立っています。
”なかちゃん”という男性が唯一、どの作品にも登場しています。
感想
以下、多少のネタバレあるかもです。未読の方は注意してください。
本を読み終わった後、解説を見ていたら、作品を読んでいる時にも、他のことをあれこれ考えてしまう点が素晴らしいと書かれていました。
確かに、その通りでした。
僕も、読みながら、いろいろと空想に耽っていました。
なぜ、そうなるのかを考えてみます。
それは、意外と単純かもしれません。
この小説集に出てくる主人公(全員女性)の思考がかなり、なんというか、静謐なんですが、定まってないのです。
それが、こちらにも影響してくるのです。
簡単に言いましたが、彼女らの思考と読者の思考をシンクロさせる技術は、決して意図せずできるような所業ではないと思います。
この点が、柴崎さんの技術力の素晴らしいところであることは間違いありませんね。
僕は、柴崎さんの「ビリジアン」を読んだ時、確かに作品から何とも言い難い感慨を得ました。
そして、この作品からも同じような印象を受けました。
「この感覚は何だろう?」、とずっとつかめずにいたのですが、ようやく言語化できる気がします。
それは、柴崎さんの文章がとても”Cool“だということです。
ここで、英語の”Cool”をあえて用いるのは”カッコイイ”とう言葉とは、ちょっとニュアンスが違う気がして、もっとこう、さり気ない感じで、垢抜けている感じの”カッコイイ”という意味を表したかったからです。
例えば、ちょっと長い引用をすると…いや、やっぱり、やめておきます笑
引用するのも少し野暮な感じがします。
ぜひ、本書を手にとって、「ショートカット」の最後の部分を読んでみてください。
そうすれば、僕の言わんとしていることは自ずと伝わると思います。
”なかちゃん”はちょっと得体が知れないキャラクターです。
特徴は、ちょっと伸びた坊主頭で黒目が大きくカメラを撮ることです。
「ショートカット」の中では、執拗に
「なあ、おれ、ワープできんねんで、すごいやろ」
と繰り返しているあたり、狂気を感じます。
それぞれの話の主人公は”なかちゃん”と比較的、有効な態度をとっていますが、僕だったら、あまり関わりあいを持ちたくないタイプです。
でも、人ごとだから、読んでいて、面白かったです(苦笑)
みなさんは遠距離恋愛をしたことはありますか?
この作品では、舞台の中心が大阪で、恋人が東京にいるという設定がほとんどでした。
なんとなく、「距離」、「時間」、「空間」という概念が、作品中では、拡張されていたように思います。
これは、文学だから表現できることであり、現実ではあり得ないことです。
ただ、それらの概念の持つ曖昧さを再認識させられたような感覚です。
そして、隔たりはとても大きいと改めて思わざるを得ませんでした。
このあたりが、作品の持つ特性であったように思いました。
こんな方におすすめ
- 遠距離恋愛中だよ〜という人
- 「距離」「時間」「空間」の概念を問い直したい人
- 何ともいえない読後感を味わいたい人
あとがき
うーん、この作品、かなり面白かったです。
柴崎さんの文章力は本物だなと思いました。
この感じ、川上未映子さんに対する印象と似ています。
もっと柴崎さんの作品を読み込みたいので、今後に期待して評価は●(4 point)にしました。
いい本なのでぜひ読んでみてください^^