純文学

■【書評】『モルヒネ』(安達千夏)で描かれるのは大人の叶わない愛

2017年4月26日

『モルヒネ』(安達千夏)の読書感想文です。

『モルヒネ』を読むのは何度目でしょうか。

人の深層心理に踏み込んだ描写が多く、どれも考えさせられることばかりです。

個人的には、作品に漂う静けさに安心します。

『モルヒネ』(安達千夏)のあらすじ

 終末期医療のホスピスで勤務している医者・藤原真紀は、院長の長瀬と結婚するつもりでいました。

 そこに突然現れたのが、7年前に真紀の元を去った恋人・ヒデ。

 彼は、末期癌でした。

 真紀が持つ「心の傷」を唯一、共有できた相手。

 彼は、自慢のピアノを症状のせいで、満足に弾くこともできず、半ば自暴自棄になります。

 真紀はかつての恋人として医者として、どのように振る舞えばよいのでしょうか。

 儚く切ない恋愛小説。

『モルヒネ』(安達千夏)の書評/感想

 

 あきらめてるくせに頑張っちまう、とヒデは笑った。

 見切りをつけました、と澄ましながら、俺も、真紀も、悪あがきをやめられない。

 努力、と人は言うよな。

 達成感なんかいくら探してもどこにもない種類の人間の、再現のない自己懲罰をさ。

 真紀は自分で命を絶つために医者になりました。

 幼いころ父親の暴力で失われた姉の命を、常に想いながら、生きてきました。

 そんな真紀の「心の傷」をヒデは笑いとばすでもなくただ、受け入れてくれました。

 他人の「傷」に対して、同情、憐憫、ではなく、ただありのままを受け入れるということは、とても難しいことだと思います。

 真紀はそのような相手に出会う事ができて幸福だったでしょう。

 しかし、ヒデは去りました

 その時の、真紀の心情、自分の身体の一部を失ったような気持ちは、想像を絶するほどの孤独感だったでしょう。

 そして、7年ぶりに再会したヒデは昔の彼のままでした。

 異なるのは、末期癌だったことです。

 ヒデの再登場は、真紀にとって、想定外でした。

 ただ、どうしようもなく惹きつけられていくことをやめることはできません。

 彼がまた真紀のもとを去ることは、決まっているのに。

 そんな儚く切ない感情やり切れない愛の気持ち、そういった、情緒が作品全体からにじみ出てくる作品です。

あとがき:『モルヒネ』(安達千夏)

 今回は安達千夏さんの作品である『モルヒネ』について記事を書きました。

 読んでいると切なくなってくる話ですが、扱っているテーマはとても、壮大で奥の深いものだったと思います。

 そして、真紀とヒデの恋愛はとても美しいものです。

 薄い本なので、ぜひ作品を読んでみてくださいね。

 きっと、清々しい気持ちになると思います。

◆安達 千夏(あだち ちなつ)
1965年山形県山形市生まれ。

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