


最果タヒ 詩集三部作
- 死んでしまう系のぼくらに
- 夜空はいつでも最高密度の青色だ
- 愛の縫い目はここ
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『愛の縫い目はここ』心に残った5つの詩

ワンシーン
覚えているよ、と告げることが、だから、
すべてのような気がした。
ぼくの瞳にすみついた、きみの欠片を、ぼくは覚えているよ
引用p21より
「身軽になる」と「重さを忘れる」が、人生の可能性がどんどん少なくなっていくことと、結びつけるのは邪推でしょうか。
確かに、まだ大人じゃない頃、僕たちは可能性に溢れ、故にさまざまなモノを背負っていました。
人生という旅をしていく渦中で、いらない荷物は置いていくことが求められます。
でも、荷物の中には、大切なものが入っていて、
それを「覚えているよ」と告げてくれることに、優しさを感じました。
アンチ・アンチバレンタイン
引用p33より
『愛の縫い目はここ』の大きなテーマのひとつに「ひかり」があるように思います。
僕が思ったのは、「ひかり」を最果タヒは「救い」のように表現しているな、ということです。
世界はどうしようもなく不条理だけど、縫い目からこぼれ落ちる一筋のひかりがただまっすぐ進むから、
世界は美しいし、明日も生きていける。
自分は肯定されているんだ、とうたっているのではないでしょうか。
ふれた永遠
世界は、ちゃんと信じさせて。
なにもかもが永遠にあるべきだよ。窓のサッシに溜まった露さえも。
引用p37より
窓のサッシに溜まった露は、すぐなくなりますよね。
世の中には、瞬間の風情が生まれては消えていく。
でも刹那のひとつひとつが、大切な生命を宿していたのだと、
信じないと、生きることはとても虚しくなります。
だから、信じさせて、ということでしょうか。
光の匂い
引用p48より
最果タヒは、生きていることを過度に美化することが嫌なのではないでしょうか。
もっと正確に言えば、生きることの美学を押し付けてくる社会に、反抗したいのでは。
だって、美しくあることを求められるのは、ツラいですよね。
ぐだぐだ、だらだら、布団の中でゴロゴロしていても、
ただ、あるだけで草や雪のように十分美しいじゃないか。
そんな葛藤を感じる詩でした。
坂道の詩
清潔なんかじゃない海が、山が、日光で輝いて、
私たちは手放しにきれいとつぶやく。
大丈夫、この街が嫌いでも生きていけるよ。
引用p73より
最後の言葉にヤラれました。
人間って、すごく複雑にできているのに、単純ですよね。
綺麗じゃなくても、好きじゃなくても、やっていける。
そうやって、人は生きて、死んで。
また、恋愛をする。
この心と街の間が、愛の縫い目だと僕は思いました。
『愛の縫い目はここ』の解釈

最果タヒの詩集は全部読みました。
彼女のことは、詳しくは知りませんが、優しい人だということだけは確信しています。
ただ、本当に優しい人は心にナイフを持っています。
じゃないと社会を生き抜くことができないからです。
その心のナイフが鋭く表に出た作品が第一詩集『グッドモーニング』。
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★【詩集】『グッドモーニング』(最果タヒ)_10代に紡いだ攻撃性は永久に抉り続け【解釈】
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そして、最果タヒの優しさが色濃く出たのが『愛の縫い目はここ』だと思います。
引用p93より
最果タヒは、生きづらい国で暮らしている僕たちの叫びにならない声を、代弁してくれています。
そして、僕たちの変わりに傷ついて、それでも作品を書き続けている詩人です。
僕が最果タヒの純然たるファンとなったのは、この『愛の縫い目はここ』を読んだからかもしれません。
『愛の縫い目はここ』はこんな人におすすめ!



あとがき:愛の縫い目はここ
『愛の縫い目はここ』(最果タヒ/リトル・モア)の感想と解釈をお届けしました。
最果タヒの思わぬ一面が垣間見れたのではないでしょうか?
彼女の詩集は、作品によってテイストが随分と異なります。
ぜひ、ご一読してみてください。
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