『雨の降る日は学校に行かない』(相沢沙呼/集英社文庫)の読書感想文です。6つのお話からなる短編集です。1つ1つのストーリの中には、シンボルが設定されています。「今回のシンボルはなんだろう?」と想像しながら読むと、きっと面白いはず。それぞれのお話のあらすじと感想・考察を書きます(ややネタバレ)。
『雨の降る日は学校に行かない』(相沢沙呼)の全体あらすじ
あらすじ
短編①:「ねぇ、卵の殻が付いている」
あらすじ
ナツとサエ、それぞれの事情から、保健室登校を続けています。
そんな二人でしたが、ある日、サエが教室に戻ることになりました。
それを素直におめでとうと言えないナツの心情。二人の絆。
感想
ナツは、教室に戻ることが怖いと言います。
特に明確な理由があるわけではありません。
他人から好奇の目でみられることや、ちょっかいを出されることが嫌で、自然に身体は震え、胃が痙攣してしまいます。
サエが教室に戻ることを裏切りのように感じ、半ば自暴自棄になり、進路希望のことを考えることもできません。
それでも、一緒に保健室で過ごした濃密な時間、培った絆は、そういった困難を乗り越えるのに十分でした。
ナツは勇気を出して、保健室の外に飛び出し、親友に謝意を示します。
そこで、明かされるサエの事情。
ゆで卵の殻が二人の絆を示すシンボルとなる本作、揺れ動くナツの気持ち、後悔、覚悟、勇気、を短い文章の中で的確に表現されていて、読者を惹きつけます。
短編②:好きな人のいない教室
あらすじ
森川は少し真面目な普通の女子中学生。
他の派手な女子たちとは一線を画しつつ、なんとかうまくやっていました。
しかし、オタクで冴えない男子の岸田と席替えで隣になり、二人きりでしゃべっているところを見られた森川はいじめの対象となってしまいます。
他の仲が良かったと思っていた友達からも見放され、ただ一方的に詰られるのみ。
そんな森川は岸田の毅然とした態度に喚起され…。
感想
学校でのいじめは筆者がもっとも嫌うもののひとつです。
あいつがこーだの、だれがあーだの、知ったこっちゃないです。
本作の森川も本当に些細なことがきっかけで、どん底に貶められます。
そういった残酷なことができる人たちは、想像力が本当に欠如しているんでしょう。
そんな様子が本作ではかなり切実さを伴って描かれていて、僕はとても共感しました。
今回は、ペンケースがシンボルとされていましたね。
短編③:死にたいノート
あらすじ
藤崎は毎日死にたい理由を考え遺書を手帳に書き記している女子中学生です。
ある日、そのノートをクラスメイトの河田に拾われて、中身を見られてしまいます。
自分の手帳だと、伝えることができずに、河田の友達のあっちゃんと共に3人で手帳の持ち主を探すことになる…。
感想
この作品のシンボルは、くちびるですね。
クラスメイトの河田のはっきり通る声とは真逆にもごもご喋ることしかできない藤崎。
手帳の持ち主探しという、決して見つかることのない活動をしていることに、罪悪感を感じてますが、それを楽しいと感じてしまっている自分。
でも、いつかは、本当のことを伝えなくてはなりません。
そういった心理描写が正確に描かれている作品です。
短編④:プリーツ・カースト
あらすじ
エリはクラスでイケてるグループに属している女子中学生です。
ひょんなことから、小学生の時の友達の真由のことを能面に似てると良い「おたふくさん」というあだ名をつけました。
本人は、その場限りの笑いだと思いましたが、そのあだ名はクラス中から大爆笑。
あだ名はすっかり定着してしまいます。そんな真由に対するクラスメイトの態度に煮え切らない気持ちを抱きつつもそれを否定することができないエリ。
そんなある日、真由が歌う合唱を目にしたエリは⋯⋯。
感想
この作品では「スカート」がシンボルでした。
スカート丈がクラスのカーストと一致しているとエリは思います。
丈が短ければイケてるグループ、膝まで隠してるとダサいグループ。
コミュニケーションは同じグループ同士でおこなう、そんなスクールカーストを描いています。
通常、こういったスクールカーストについて書かれる小説などは、弱者の視点から描かれることが多いですが、本作では、強者であるエリの視点から話が展開していきます。
揺れ動くエリの心情はとてもリアルです。面白い作品でした。
短編⑤:放課後のピント合わせ
あらすじ
画像投稿サイトに自身の下着姿などをアップロードして、その反響を喜んでいた女子中学生しおり。
学校では、小学校からの友達で天真爛漫、クラスでも人気者のナオとは違い、明るいグループに所属せず、淡々と日々を生きていました。
ひょんなことから、教師の一眼レフを借りて写真を撮ることになったしおりは…。
感想
今回のシンボルは「カメラ」です。相沢さんの作品は、登場人物の心理が本当によく描かれています。
本作では、しおりがいた暗く歪んだ世界から明るく光溢れる世界に心情が変わっていくさまを「カメラ」を通じて、見事に描かれています。
きっと彼女はこれから自分の道を見つけて歩んでいくことでしょう。
そう読者に予感させるような作品でした。
短編⑥:雨の降る日は学校に行かない
あらすじ
内向的で非社交的な女子中学生サエは、クラスメイトの派手で明るい飯島から、いじめを受けるようになります。
なんとか我慢して通学しようとしたサエですが、いじめはエスカレートして、とうとう学校に行けなくなってしまいます。
そんなサエを心配する保健室の先生、長谷部は…。
感想
今回のシンボルは「虹」です。いやー、この文章は読みながら書いているので、感想が時系列なのですが、この作品はなんと最初の作品である「ねぇ、卵の殻が付いている」と対になっています。
そこに至るまでの話の伏線がとても素晴らしいです。
感動しました。本作は、サエのいじめに負けまいとする気持ちが読者に伝わってくるかのように文章が紡がれています。
決して、逃げようとしないサエをとてもすごいと思いました。
『雨の降る日は学校に行かない』はこんな人におすすめ!



あとがき:『雨の降る日は学校に行かない』(相沢沙呼)
『雨の降る日は学校に行かない』(相沢沙呼)の読書感想文でした。
時系列式に作品について書いてきましたが、最初から最後まで、著者の与える弱者による視点がとても良く描かれていて、すごく良かったです。
とても、面白いかつ考えさせられる短編集だと思いますので、ご興味のある方はぜひぜひ、読んでみてくださいね!