ファンタジー

● 【書評】『ボタニカル』(有間カオル)の幻想的なファンタジー

モロケン

未経験からフリーライターとして独立、起業。日給500円から始めて今では1記事5万円も珍しくない。いつまでも純粋さを大切にしたい。

『ボタニカル』(有間カオル/一迅社)の読書感想文です。表紙のイラストが今日マチ子だったので、すぐさま購入しました。タイトルのとおり、幻想的な作品です。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。

『ボタニカル』のあらすじと感想・考察(ややネタバレ)

女性樹木医・雨宮芙蓉(ふよう)は、同じく樹木医である父と同様に、植物の声を聞くことができます。 そして、心療内科医・朝比奈と共に「ボタニカル病」という人間に植物が寄生する病を診察しています。 本作では、それを4編からなる物語で描いています。

春ノ章 花咲ける病

 「春ノ章 花咲ける病」では、梅の花が口から零れる少女・小森瑠香が登場します。 母親からの相談を受けた芙蓉は、瑠香を訪ねますが、彼女に治療を拒まれてしまいます。 本人に治療の意思がない限り、完治させるのは、難しいと考えた芙蓉は、静観しますが、ある日、彼女が治療を拒む理由とその背景を知ることになります。 それは、実らぬ恋愛と冷え切った家族関係が原因でした。 そして、鬱屈した感情が爆発するように瑠香は、ある事件を起こします。 結局、それらは未遂に終わり、吹っ切れた瑠夏は、治療を受け、次のステップへ進みます。

 この話を読んで、わかったことは、ボタニカル病が人間の心理と非常に密接に関わっているということでした。 この事実は、これ以降の物語でも非常に重要な要素となってきます。

夏ノ章 透ける花の思い

 「夏ノ章 透ける花の思い」では、水に濡れると透明になる植物・山荷葉に寄生されていると思われる男の子・晶と芙蓉は偶然出会います。 そして、彼の隣にいて一瞬で姿を消した白髪の少年にも。 信じられないことに、晶は雨の日になると透明になるようです。 そのため、母親は度々、彼の姿を見失ってしまいます。 晶はそのことを「かくれんぼ」と言っていました。 この言葉の意味が、白髪の少年の正体と共に、とても重要になってきます。 それら、全てが明らかになるラストシーンは、意外な結末でした。

この話では、胎児が子宮内にいた時の記憶を覚えているという描写があります。 僕は、そのような感覚を味わったことがないので、なんとも言えませんが、朝比奈の言うように、世の中の現象の全てが科学的に説明できるものではないことから、そのようなことが起こってもおかしくはないと思いました。

秋ノ章 最後の花の宴

秋ノ章 最後の花の宴」では、100年に1度だけ花を咲かせ、そのまま枯れてしまう竜舌蘭という植物があらわれます。 このロマンチックな植物に芙蓉が遭遇した理由は、遠方での仕事の帰路に山中でカーナビが壊れてしまい迷っていたところ、立派な風貌のお屋敷を見つけ、宿泊するはこびとなったからです。 その家の庭にある竜舌蘭が開花寸前だったのです。 その歴史的出来事を拝むために、芙蓉は家主のキヨ子と掛け合い宿泊を先延ばししてもらい、また、親族一同をお屋敷に呼ぶ流れとなりました。 厚くもてなされる芙蓉でしたが、居心地の良さとは裏腹に、微妙な違和感を感じ始めます。 その違和感の正体が判明した時、芙蓉は病院のベッドの上にいました。 果たして、芙蓉とあのお屋敷に何が起きたのでしょうか。

 このあたりから段々と「ボタニカル」という作品が持つ幻惑な雰囲気が明確になってきたと思います。 明らかに現実では起こりえないことが、実際に起こっていると。 そう感じた時、「ボタニカル」の結末は、もしかしたら、とんでもないオチが待っているのではないかと予感しました。 そして、その予感は的中することになります。

冬ノ章 多幸感とその代償を与える花

冬ノ章 多幸感とその代償を与える花」では、沙羅双樹に寄生された老人・榊原が登場します。 彼は、末期ガンによる痛みをその植物によって緩和されていると感じていることから、すでにボタニカル病と共生していく意思を持っていました。 そんな覚悟を持った榊原に芙蓉がしてあげられることと言えば、自分では剪定することができない沙羅双樹の枝のお手入れを手伝うことくらいでした。 そして、その老人が芙蓉に告げる一言から物語は加速度的に展開していきます。

「そろそろ時間だよ」

 ・・・この後の展開は、みなさんも何となく予想できるのではないかと思います。 父親とはなぜ会っていないのか、朝比奈とはどのようにして出会ったのか、それから、物語に起こるファンタジー的要素の数々。 それらから、推測できる結末は、一つしかないでしょう。 多分、ご想像の通りです。 この結末は「秋ノ章」を読んでいる時から薄々感じていましたが、実際にその通りになると、予想していた以上にショックを受けました。 この感覚をみなさんにも味わっていただければいいなと思います。とても魅力的な作品でした◎

『ボタニカル』はこんな人におすすめ

  • 植物が大好きという人
  • ふわふわした幻想的世界観に浸りたい人
  • 話の結末が気になった人

あとがき

『ボタニカル』(有間カオル/一迅社)の読書感想文でした。とても読みやすく、登場人物も魅力的です。自信を持っておすすめできる本ですね。ブログを読んで、話の結末が気になった人は、ぜひご一読を⋯⋯。

♦︎有間 カオル(ありま カオル)
2009年にデビュー、東京都出身の女性。
法政大学文学部哲学科卒業。
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