主人公・蒔田百合は、純真さ故に苛められ引きこもりになった姉のようになるまいと、他人にどう思われるかを常に考えそつなく振る舞う生き方を選んだ。しかしある日、会社でのちょっとしたミスで人の前で泣かないと誓ったはずの涙が溢れ、会社を退職する。自分のアイデンティティを見失った百合は、茫然自失なまま、とある離島に一人旅に出ることに。旅先でも精神不安定な自分に嫌気がさしていた百合だが、ドイツ人の美しい青年・マティアスとホテルの冴えないバーテンダー・坂崎と出会い、徐々に自分の輪郭を取り戻していく。暗いトンネルから見えた一筋の光明を巧みな描写で表現した傑作。