純文学

●【書評】『神様のボート』(江國香織)_浮くことはないけど、馴染まない

『神様のボート』(江國香織)の読書感想文です。

江國香織らしいロマンチックな作品に仕上がってます。
狂気的な恋愛感と言い換えてもいいかもしれませんが。

※ほぼネタバレ無し

『神様のボート』(江國香織)のあらすじ

 昔、ママは、骨ごと溶けるような恋をし、その結果あたしが生まれた。

 ”私の宝物は三つ。ピアノ。あのひと。そしてあなたよ草子”。

 必ず戻るといって消えて行ったパパを待ってママとあたしは引っ越しを繰り返す。

 ”私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかないの””神様のボートにのってしまったから”。

 恋愛の静かな狂気に囚われた母葉子と、その傍らで成長していく娘草子の遥かな旅の物語。

『神様のボート』(江國香織)の感想文

 この作品が素晴らしいと思うのは、母・葉子の狂気的、恋愛の世界と娘・草子の大人への成長の世界のバランスが、時系列ごとに絶妙に入れ替わっている点だと思います。

 草子は葉子の弱さと閉鎖性を自身が成長するにつれてはっきりと認識することができます。

 しかし、一心に愛を受けて育った草子はそれらを指摘することができない、した時には胸が張り裂けそうになる。

 その瞬間、葉子の世界が瞬く間にしぼんで行ってしまう。

 そこには哀愁しか残らない。

 ただそれは、とても儚げで、美しいです。

 この作品では、葉子は自由気ままに神様のボートに乗って、色々な場所に引っ越していきます。

 「君は、浮くことはないけど、馴染まない」かつての夫である桃井先生に葉子が言われた言葉です。

 葉子がどれだけ自由に場所を移動しても、”あのひと”からの呪縛からは逃れることはできない

 自由でありながらも閉ざされている。

 物理的な移動と精神的な移り変わりはイコールではない

 この作品を読んでいると、そのことを強く実感できます。

 最後に、心理的な描写方法の正確性と繊細さは、さすが江國香織と思えます。

 クラシックやジャズ、絵画など文化的なものにおける教養、理知さが作者に備わっていること、そのことによって、この物語は人間の心理の奥底まで明確にしています。

 とても、素晴らしいと思います。

 これからも、江國香織の作品を楽しみにしていきます。

評価:『神様のボート』はこんな人におすすめ

評価

モロケン
忘れられない恋愛がある⋯。

情緒あふれた描写にうもれたい⋯。
文学青年

サブカル
思春期の女の子って難しい⋯。

あとがき

『神様のボート』(江國香織)の読書感想文でした。
江國香織の作品はどれも彼女自身の美意識の高さを感じさせます。
この作品は、万人におすすめできるだけでなく、江國香織らしさが色濃く出ている作品です。
ぜひ、未読の方は読んでみてくださいね。

♦︎江國 香織(えくに かおり)
1964年東京都新宿区生まれ。
目白学園女子短期大学国文学科卒業。
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