『黄色い目の魚』(佐藤多佳子/新潮文庫)の読書感想文です。思春期の男女が恋をして、成長する話。と言うと、月並みな気がしますが、作品を支える骨格が、とてもしっかりしているので、説得力のある作品です。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。
『黄色い目の魚』のあらすじ
もう、後ろの扉は閉ざされている。でも、前の扉には手が届かなくて、暗い廊下のような場所で、私はぼんやりたたずんでいる。
『黄色い目の魚』の感想文

読書感想文としては、村田と木島の(恋愛)関係について、考えるのが素直だと思います。
しかし、僕は、彼女らの”成長“に着目します。
叔父からの自立と父親からの解放
「村田と木嶋の成長とは何か?」
ずばり、
- 叔父からの自立
- 父親からの解放
です。
周囲とうまくやれない村田は、避難所のように、叔父のもとへと通います。
村田を一人の人間として扱ってくれる叔父は、彼女の良き理解者でした。
ただし、いつまでも、精神的に依存する関係は、健全ではありません。
叔父には叔父の世界があり、村田には村田の世界があります。
いつかは、自立しなくてはならないのです。
一方、木島は、父の幻影を追うように、絵を描いていました。
彼は、父と同じく、色を使わず鉛筆で作品を作ります。
同時に、彼は”マジ“になることを恐れていました。
「父親のようにはなりたくない」
そう思えば思うほど、彼は父親に似てくるのでした。
村田と木嶋が成長するためにお互いが必要だった
「最後は自分だけだ。誰かのせいにしたらいけない」
村田と木島は一歩先に進まなくてはいけませんでした。
「心の奥底にある感情をどうにかして伝える」
「不器用でもいいから本気で物事にうちこむ」
「今いる安全地帯から外に踏み出してみる」
そうするために、お互いの存在が、必要でした。
迷い、悩み、苦しみながらも、お互いを真っ直ぐに見据えた時間。
それが、彼女らを少しずつ変えていったのです。
成長した彼らの姿を見ることは、一読者として、とても清々しい経験でした。
『黄色い目の魚』は、「自分を変えたい」と思っている人、すべてに勇気を与えてくれる本だと思います。
ぜひ、いろいろな角度から作品を楽しんでみてくださいね。
『黄色い目の魚』はこんな人におすすめ!



あとがき:黄色い目の魚
『黄色い目の魚』(佐藤多佳子/新潮文庫)の読書感想文でした。
思春期の子どもが持っている可能性、あるいは潜在能力は、天井知らずだと感じました。
若い人に読んで欲しい作品ですね。