純文学

●【書評】『銃』(中村文則)_所有されているのは自分だと気づいた時にはもう遅い

2020年1月10日

『銃』(中村文則/河出文庫)の読書感想文です。中村文則のデビュー作にて「新潮新人賞」受賞作品。「銃」に魅せられた青年のお話。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。

『銃』のあらすじ

大学に通う主人公・西川は、雨が降りしきる河原にて男が倒れているのを見つける。男の傍には黒い「銃」。西川は「銃」がはなつ魅力に取り憑かれたように持ち去る。その日から西川の生活は「銃」を中心にまわり始める。「銃」が西川にもたらすのは高揚か恐怖か。無意識の錯綜を緻密に描いた、奇才・中村文則の衝撃のデビュー作。

『銃』の感想と考察(ややネタバレ)

『銃』の感想と考察を書きます。ネタバレが嫌だよって人はコチラまで、進んでください。

予想や想像に重点を置けば、深く何かを考え、自分に照らし合わせて検証すれば、何もできなくなる。私はそれを思い、少し笑った。

西川の「銃」への執着はフェティシズムを超えて

西川は、両親に見捨てられ施設と里親のもとで育ちました。中村文則の作品によくみられる設定です。日々の生活や人との関わりにおいて、西川にとくに問題はありません。少なくとも表面上は。しかし、彼の心がすごく冷めていることは、作品を読んだなら誰もが気づくでしょう。

私には、これから起こるであろう近くの未来を意外なものにしたいと思う、そういった癖のようなものがあった。

しかし、彼の「銃」に対する執着は、本物です。世の中には、小さな物体の衰廃を意味するフェティシズムという宗教学の言葉があります。しかし筆者は、西川の「銃」に対する想いは、衰廃というよりも「」であるように思います。作品中にも、自分の中に対する思いが一方向的であることに、西川が悲しむ描写があります。このような視点は、中村文則の才能だと思います。

銃により侵食されていく西川の意識

西川は、「銃」を所有していると思ってましたが、所有されているのは自分のほうでした。銃を磨くだけで満足していた頃から、銃を持ち歩くようになり、やがて可哀想な黒猫に発砲し、あのような結末に至りました。西川を疑う刑事が予想していたように、一連の流れは「銃」に出逢ってしまった時から決まっていた運命のようです。

「死」を間近に見てわかる生のぬくもり

私が感じたものは、自分の存在を揺るがすような、密度の濃い、恐怖だった。その先には、私の体よりも圧倒的な大きさをもつ、限りの見えない、黒く、深い空間が広がっていくように感じた。私はその中に、潰れるような孤独を感じた。

僕も自殺未遂を経験しているので、「死」が本当に近くまで来た時の絶望的な孤独がわかります。それ以来、僕は自殺することが叶わないと悟りました。西川は、死を眼前にして初めて、自分をとりまく小さな生活の断片のぬくもりを知ったのでしょう。だからこそ彼は、銃を捨てる決意をしたのです。しかしあの結末は⋯⋯やりきれませんね。

評価:『銃』はこんな人におすすめ

評価

中村文則の「原点」を知りたい!

「銃」を手に入れた男の末路に興味がある⋯。

今までの小説とは違う独特の世界観に触れたい。

中村 文則
1977年愛知県東海市生まれ。
福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。

あとがき:銃

『銃』(中村文則/河出文庫)の読書感想文でした。

「銃」をテーマにここまで濃密な描写ができる中村文則の才能に驚愕しました。デビュー作とは思えないクオリティーです。
未読の方は、ぜひ。

中村文則おすすめ作品

第一位:『遮光』

主人公の男の恋人・美紀は事故で死んだ。しかし、周囲には美紀の死を伝えず、今でも美紀が生きているように嘯く。男は、黒いビニールで覆われた小瓶に異常な執着をみせ、常に持ち歩く。虚言癖の青年の恋愛と狂気が紙一重で、揺れ動く様を描いた傑作。

ココが読みどころ!

  • 主人公が大切にする黒い袋の中の小瓶の正体とは?
  • 行き場のない狂おしい愛を抱えた男の末路とは?
  • 主人公が虚言を吐き、演技を続ける理由とは?


第二位:『掏摸』

主人公の男・西村は、東京でスリを生業とする。彼のスリの技術は超一級で、孤独だが不思議な平穏の元、日々を暮らしていた。ところがある日、「木崎」という闇世界の住人と出会ってしまう。木崎に存在を知られたものは皆、掌で踊らされ悲痛な結末が待っている。西村は、自身の「運命」に光を見出すことができるのかーー?

ココが読みどころ!

  • 作中にたびたび登場する「塔」が象徴するものとは?
  • 心を閉じ暗い世界に居座り続ける意志を否定できるか?
  • 他人の運命を管理下におき快感を得ることはフィクションか?


第三位:『迷宮』

日置事件(通称:折鶴事件)は、1988年に東京都練馬区の民家で発生しました。日置剛史(45)、妻の由利(39)、そして長男(15)の3名が殺害され、長女(12)だけが生き残ります。殺人現場は、遺体を囲むように312個の折鶴が色鮮やかに配置されていました。弁護士事務所で働く新見は、この殺人事件の唯一の生存者である紗奈江と、偶然知り合い、関係を持ちます。そして、折鶴事件の真相を確かめるため、奔走します。そこで明らかになる真実と新見の抱える心の闇の行方はー?

ココが読みどころ!

  • さりげない狂気から滲み出てくる美しさの正体とは?
  • 折り鶴事件の真相を追いかける主人公の心情とは?
  • 架空の存在「R」は何を象徴しているのか?

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