ミステリー

● 【書評】『バイバイ、ブラックバード』(伊坂幸太郎)の登場人物に好感を持つのはなぜだろう?

モロケン

未経験からフリーライターとして独立、起業。日給500円から始めて今では1記事5万円も珍しくない。いつまでも純粋さを大切にしたい。

『バイバイ、ブラックバード』(伊坂幸太郎/双葉文庫)の読書感想文です。伊坂幸太郎らしい不思議な世界観が描かれた作品でした。登場人物も個性豊かな人たちばかりで、飽きることなく読破です。あらすじと感想・
考察(ほぼネタバレ無)を書きます。

『バイバイ、ブラックバード』のあらすじ

星野一彦はとある事情から”あのバス”で連れて行かれてしまうことになりました。見張り役である繭美は、190cm200kgのモンスター女。星野は、”あのバス”に乗る前に、彼女に懇願します。「5人の恋人に別れを告げたい」。そんな星野の願いは受け入れられ、様々なバックグラウンドを持つ女性に、1人ずつ、別れを告げにいくこととなります。星野に訪れる結末とはーー。

『バイバイ、ブラックバード』の感想と考察(ほぼネタバレ無)

 この作品はとても読みやすい内容でした。

 伊坂作品全般に言えることですが、読んでいて、少しも抵抗というものがなく、気がつくと読み終わっているということがよくあります。

 それはきっと、会話・心理表現・描写の一つ一つがとてもユーモラスに紡がれているからだと思います。

 さて、本編ですが、この話を読み終わった後、星野に好感を持っていたら、伊坂さんの、術中にはまっていると言えるでしょう。

 なぜでしょうか。

 それは、星野がそもそも5股をしていて、人間的にNGであるという前提があるからです。

 当然、読者はこの設定を読んで、星野に好感を持ちはしないでしょう。

 しかし、読み進めていくにつれて、星野のことをどんどん好きになっていく、その過程がとても見事です。

 
 星野は5股をかけられるくらい容姿に魅力があるのでしょうか。

 そうではありません。作中では、以下のような記述があります。

短い髪に、高い鼻、目と耳が大きく、整っているとは言いがたいものの、個性はある

 つまり、星野は外面に魅力があるわけではないのです。

 それでは、内面が素晴らしいのでしょうか。

 この本を読んでいればわかるように、星野はどこまでも凡庸です。

 際立った特徴というものがありません。

 なぜ彼に5人の女性が好意を持つのでしょうか。

 それは、星野がどこまでも素朴だからです。

 素朴になろうということと素朴であることは、大きく違います。

 星野の素朴さは、作中にあるように、「小学生のサッカーでみんながボールに集まるような」類のものなのです。
 
 この星野の素朴さを強調するために存在するキャラクターがいます。

 それが、繭美です。

 彼女の凶暴な性格と野蛮な見た目は、とことん常軌を逸しており、その横に並べられた星野は、普通人間の代表であるかのようです。

 彼女との比較があって、初めて、星野の素朴さが魅力へと転化し、読者の感情をコントロールします。

 ただ、伊坂さんのすごいところは、こんな規格外の化け物である繭美にさえも、次第に読者が好意を持っていくように仕向けていることです。

 星野というキャラを立たせたいだけなら、とことん悪役にしてもいい繭美も、きちんと好感を持てるような仕掛けを散りばめている。

 さすがとしかいいようがありません。

 最後に、5人の恋人にはそれぞれ星野との出会いと別れにカタチがありました。

 出会いはとても、運命的というか偶然というか、真似できるようなものではありません。

 でも、その別れにおいて、星野がとった態度はとても真摯であり、その姿勢は見習うところがあるかもしれないなと思いました。

 具体的にどんな別れをしたのかは、ぜひ読んでみてくださいね。

評価:『バイバイ、ブラックバード』はこんな人におすすめ!

評価

モロケン
タイトルがカッコいい⋯⋯(笑)

伊坂幸太郎は気になってたけど、まだ読んだことない⋯。
文学青年

サブカル
素朴な星野をどうやって魅力的に描くのだろう?

あとがき:バイバイ、ブラックバード

 今回は、伊坂幸太郎さんの作品である『バイバイ、ブラックバード』(双葉文庫)について、感想を書きました。

 とてもポップで愉快な話です。

 伊坂さんの作品は基本的に僕はどれも好きですので、読んだ読んでないに関わらず、これから読んで、感想記事を上げていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 ぜひ、この本も読んでみてくださいね!

♦︎伊坂 幸太郎(いさか こうたろう)
1971年千葉県松戸市生まれ。
東北大学法学部卒業。
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モロケン

未経験からフリーライターとして独立、起業。日給500円から始めて今では1記事5万円も珍しくない。いつまでも純粋さを大切にしたい。