川上未映子

● 『ヘヴン』

投稿日:2017年4月11日 更新日:

はじめに

 今回、感想を書く作品は川上未映子さんの作品である『ヘヴン』(2009年、講談社)です。

 この本は、平成21年度芸術選奨新人賞、第二十回紫式部文学書受賞作です。

 川上未映子さんの作品は当ブログでもいくつかご紹介してきました。

 彼女の著作に共通して言えることは、どの作品も切迫感があることです。

 本作品も後でご紹介するように、非常に読者に対して迫ってくるものがあります。
 
 そして更に、なぜこの本を選んだかというと、この作品の大きなテーマとして「いじめ」が取り扱われているからです。

 僕は「いじめ」に対して、特に敏感です。

 なぜ、そうかというのは、察してくださいね笑

『ヘヴン』

あらすじ

 中学校で同じように苛められていた斜視の「僕」と不潔な「コジマ」との交流は、「わたしたちは仲間です」と書かれた一通の手紙から始まった。

 自然に育まれていく友情あるいは連帯感の中で、二人の関係は複雑に変容していく。

 善悪とは何か、強弱とは何か、宗教と哲学的なアプローチからそれらを問い詰める本作は、単なる「いじめ」の問題を超えて、より根源的な考察がおこなわれている。

 「僕」は、それらに対して、どうふるまっていくのだろうか—。

感想

 この作品のテーマは「善悪と強弱」です。

 勿論、この作品には、複雑な人間関係と心理描写が存在し、様々な解釈が必要だとは思うのですが、僕はこの2点に絞って、感想を書きたいと思います。
 
 まず、「善悪」ですが、苛めを受けている「僕」が、その加害者の一員である百瀬にいじめについて訴えているシーンがあります。

 「誰かにたいしてこんな暴力をふるう権利はない。」

 「権利があるから、人ってなにかするわけじゃないだろ。したいからするんだよ。」

 この会話でもそうですが、百瀬は権利と欲求は別問題だと述べ、人はその欲求とタイミングが一致した時に何らかの行動を起こすという主張をします。
 
 また、「僕」が百瀬たちを殺すことはしたくないと述べた時の言葉。

 「君はどうしてそれをしたくないんだ?できないんだ?

 問題はそこだ。

 どうして君は僕たちを包丁かなにかで刺してまわらないんだ?

 やってみると状況もあんがい変わるかもしれないのに、なんで君にはそれができないんだと思う?

 捕まるのがこわいか?

 でもいまなら犯罪にはならないんだぜ?」

そしてたたみかけるように次の言葉を言います。

 「人には、できることとできないことがあって、まあ趣味があるってことなんだよ。

 できることは、できてしまうという、ただそれだけのシンプルな話だよ」

 これまでの会話をみるとわかるように百瀬は「僕」を苛めることに対して、罪悪感を感じることはありません。

 ただ、そういう欲求があって、それができるから、しているだけ、と述べています。

 僕は当然、被害者として、その言葉を素直に飲み込むことはできないのですが、きっちりと否定することができず、動揺してしまいます。

 
 次に、「強弱」についての話ですが、これはコジマがいじめられている一方、どんどん力強さのようなものを身につけていったことについて書きたいと思います。

 コジマは一貫して、いじめられることには何らかの意味があって、それに対する報酬のようなものが必ず存在するという宗教的な考え方を強めていきます。

例えば、

 「ねえ、でもね、これにはちゃんとした意味があるのよ。

 これを耐えたさきにはね、きっといつかこれを耐えなきゃたどりつけなかったような場所やできごとが待っているのよ。

 そう思わない?」

という言葉にそれが表れています。

 しかし、「僕」はそういったコジマの態度に対して次第に違和感を感じるようになっていきます。

 「コジマに励まされれば励まされるほど、コジマが苛められながらもその態度に説明のつかないような、なにかちからのようなものを身につけてゆけばゆくほど、僕はコジマを直視できなくなっていった」

 物語の最後では、この強くなったコジマに衝撃的なラストが待ち受けているのですが、それはネタバレになっちゃうので、ぜひ本を読んでみてくださいー。

まとめ

  • 善悪と強弱。哲学と宗教。
  • コジマにも百瀬にも共感できない僕がむかえるラストとは

あとがき

 今回は、川上未映子さんの作品である『ヘブン』について感想を書きました。

 内容がとても奥深いので、なかなか読み解けている自信はないのですが、機会があればまた再読したいと思います。

 本作は、「いじめ」について関心がある方にとっては非常に示唆に富む作品だったんじゃないかと思います。

 そういう方がもしいらっしゃれば、ぜひぜひご一読を!

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