『すべて真夜中の恋人たち』(川上未映子)の読書感想文です。本作は平易な文体で書かれています。内容はかなりグッとくる恋愛小説です。あらすじと感想・考察を書きます(ややネタバレ)。
『すべて真夜中の恋人たち』(川上未映子)のあらすじ
『すべて真夜中の恋人たち』(川上未映子)の感想と考察(ややネタバレ)
『すべて真夜中の恋人たち』の感想と考察を書きます。ネタバレが嫌だよって人はコチラまで、進んでください。
光について
真夜中は、なぜこんなにきれいなんですか。
真夜中はどうしてこんなに輝いているんですか。
どうして真夜中には、光しかないのですか。
この作品は「光」が冬子と三束さんを結ぶ絆のように扱われています。
それらは、物理の本、ショパンの子守唄、二人を包んだ真夜中の光景。
光に、さわることってできるんですか
わたしは、三束さんに、さわることはできますか
三束さんに対する思いを、光に重ねて口にする冬子、その透き通る感性は、読者をハッとさせますね。
冬子の無垢
多くの男性と関係を持つ友人、聖とは正反対に、冬子には恋愛と呼べる経験は、ほとんどありません。
それゆえに、三束さんに対して抱く感情をはかりかねています。
しかし、それが恋愛感情と呼べるものだと徐々に気づき、会うたびに、その思いは強くなっていきます。
冬子は淡々と独りで校正の作業をこなす一方、その感受性は人一倍豊かだと僕は思います。
だけれども、コミュニケーション能力は皆無です。
聖と話してる時などは、ほぼ相槌しかうちません。
ですので、三束さんに対する感情を伝えることはおろか、お酒を飲まないと、喫茶店でまともに話しをすることもできません。
そのたどたどしさは、冬子の無垢さを読者に強調し、恋の成就を願わずにはいられなくさせます。
過去との決別
わたしはいつもごまかしてきたのだった。
目のまえのことをただ言われるままにこなしているだけのことで何かをしているつもりになって、そんなふうに、いまみたいに自分に言い訳をして、自分がこれまでの人生で何もやってこなかったことを、いつだってみないようにして、ごまかしてきたのだった。
傷つくのがこわくて、何もしてこなかったことを。
失敗するのがこわくて、傷つくのがこわくて、わたしは何も選んでこなかったし、何もしてこなかったのだ。
冬子は今までの「選択してこなかった自分」と決別したいと思い、主体性をもってアクションを起こします。
結果がどうであれ、それは、今までの自分からの脱却であり、成長であると僕は感じました。
僕も、学生時代などは主体性を持って色々なことに飛び込んできたのですが、大人いわゆる社会人というやつやらになってから、ずっと受け身でした。
仕事を頑張るでもなく、プライベートを充実させるでもなく、なんとなーく、生きるってこんなに虚しいもんかと思いながらただ退屈な日々を過ごしていました。
でも、僕自身も冬子のように変わりたいのです。
僕にはきっと変化が必要だと思います。
過去の自分からの脱却は、勇気がいることかもしれないけれど、一歩を踏み出していきたい。
そんな勇気をこの作品からもらった気がします。
評価:『すべて真夜中の恋人たち』はこんな人におすすめ!
評価



あとがき:『すべて真夜中の恋人たち』(川上未映子)
今回は、川上未映子さんの作品である『すべて真夜中の恋人たち』という本に関する記事を書きました。
この本を読んで僕は改めて川上さんの作品が凄く好きであることを認識しました。
巧みな表現力、緻密な構成、クライマックスにおける感情の吐露。
すべてが鳥肌が立つくらい見事に描かれていると思います。
読んだことがない方は、ぜひ読んでみてくださいね!