はじめに
今回は、川上未映子さんの作品である『わたくし率 イン 歯ー、または世界』(2010 講談社文庫)について、感想を書きたいと思います。
ちょっと前に読んだ「乳と卵」という作品が非常に面白かったことと、川上未映子さんの文体にすっかり魅了されてしまったので、次の作品をすぐ読みたいと思い、芥川賞候補にもなった本書を取り上げたく思いました。
『わたくし率 イン 歯ー、または世界』
あらすじ
人はいったい体のどこで考えているのか。
それは脳、ではなく歯—人並みはずれて健康な奥歯、であると決めた「わたし」は、歯科助手に転職し、恋人の青木を想い、まだ見ぬ我が子にむけ日記を綴る。
哲学的テーマをリズミカルな独創的文体で描き、芥川賞候補となった。(巻末より)
感想
本著の奥歯に対する執着心はものすごい力強さを持っていると思います。
内容は、「脳ではなく、奥歯で考える」と稚拙であるにもかかわらず、著者の文体と流れるような文の連なりで、それらは切迫感をもって読者のもとに伝わります。
「私とは何か?」という哲学的問いかけに対して、筆者はことごとくユニークな論説を持って、それを解き明かして行きます。
それらは見ていてとても気持ちがいいです。
最後の展開は怒涛のようなやりとりで高密度。
ぜひ、皆さんに読んでもらいたいと思います。
思えば、僕は「私とは何か?」という問いに対して、本著のように、真摯に向き合ったことはないなあと思い知りました。
私ってなんだろう?僕はなんだろう?
そう考えた時に僕はなんだろうと考えているその僕が私ではないのかという言葉遊び的なことも言えるけど、もっと本質的に考えたほうがいいのではないだろうかと思いました。
本著を手に取る前はそんなことを考えるという視点すらなかったです。
そういう気持ちになったというだけで、本著を読んだ価値はありました。誰がなんて言おうと、僕はこの本から影響をうけました。
それは、例えば、作品がどんなに批判されようと、貶されようと、決して変わらないのです。
あとがき
ここまで川上未映子さんの『わたくし率 イン 歯ー、または世界』について、感想を書きました。
その独自の文体だけではなくストーリーやテーマも非常に面白いので、僕はこの本を万人が受け入れてくれるといいと思います。
amazonのレビューとかを見ていると、けっこう辛口なコメントも多いけれども、そんな風に思われるほど、変な本かなあ?と思います。
著者が考察するにあたりとったアプローチのほとんどは成功していると思うのだけども。
というわけなので、皆さんにはこのちょっと変わったタイトルの本を読んでみることをおすすめします。
きっと新しい視点を持つことができると思います。
この本には、ページ数は少ないけれども、それだけのパワーがあると思うので。是非是非です^^