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蛇にピアス/金原ひとみ_舌にあけた穴を覗き込んだら空虚だった
「スプリットタンって知ってる?」これがルイとアマの出会いでした。ひと目でそれを気に入ったルイは、シバの店を訪れます。アマと同棲しながら、シバとも関係を持つルイは、舌にピアスをいれ、刺青を彫り、「身体改造」にはまっていきます。若者が持つ鋭い感性と荒々しい暴力の世界を描いた衝撃作。

蹴りたい背中
- 第130回芥川賞(2003)を最年小受賞(19歳)
- 単行本の発行部数は125万部を記録
- これは芥川賞受賞作では『限りなく透明に近いブルー』に次ぐ歴代二位(当時)
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限りなく透明に近いブルー/村上龍_白い起伏と黒い鳥
舞台は東京、基地の町、福生。ここにあるアパートの一室、通称ハウスで主人公リュウや複数の男女がクスリ、LSD、セックス、暴力、兵士との交流などに明け暮れ生活している。明日、何か変わったことがおこるわけでも、何かを探していたり、期待しているわけでもない。リュウは仲間達の行為を客観的に見続け、彼らはハウスを中心にただただ荒廃していく。そしていつの間にかハウスからは仲間達は去っていき、リュウの目にはいつか見た幻覚が鳥として見えた。
『蹴りたい背中』を動画で解説
『蹴りたい背中』-あらすじ
あらすじ
※ここからややネタバレします
ハツのにな川に対する思いの正体とは?
まずは有名な一節を引用することから始めましょう。
引用p76より
にな川が夢中にオリチャンのラジオを聞いているときに、ハツに芽生えた感情です。
「衝動」というほうが正しいかも知れません。
そして、実際にハツはにな川を蹴ります。
このときから、ハツのにな川を見る目は、はっきりと変わります。
引用p155
ハツの唯一の友人である絹代は、ハツのにな川に対する執着を「恋」だといって茶化します。
しかし、ハツに起こっていることはサディズムの萌芽という見方が正しいでしょう。
『蹴りたい背中』が面白いのは、普通の女の子の普通の日常に、サディズムというヘビーなものを上手く調和して表現したことです。
これを当時19歳で全体が崩れないように書いた筆力は、素晴らしいと思います。
ハツとにな川のこれから
にな川は、オリチャンのライブで起きたことをきっかけに我に返るでしょう。
要するに、他社と触れあわないことで成立した彼の妄想空間が消滅して現実空間になるということです。
おそらく、これからハツとも疎遠になり、オタクらしさはうしなわないまでも、まっとうな人生を歩むでしょう。
一方、心配なのがハツです。
ハツはにな川と離れても、そのときに感じた衝動を生涯忘れないと思います。
結果、サディストとして成長していくんじゃないかと。
これはハツの人生に重くのしかかると思います(本人は無自覚でも)。
ハツが生まれ変わるためには、また違う物語が必要かも知れませんね。
『蹴りたい背中』を読みなおしてみて
『蹴りたい背中』をはじめて読んだのは、随分昔です。
おそらく学生時代だったと思うので、ハツのクラスメイトに対する気持ちにとても共感しました。
僕も学生時代は、存在感を押し殺していたツラい時代でしたので。
だから、この作品を読んで慰めにしていたと思います。
でも今、蹴りたい背中を読み直してみて、思ったこと。
それは、痛々しさです。
作品のあらゆる箇所から「痛々しさ」が伝わってきて、随分印象が変わりました。
ただ作品の鋭さについては、あらためて19歳が書いたとは思えない、圧巻です。
あとがき


