ミステリー

迷宮/中村文則_あまりにも美しい猟奇的殺人事件

『迷宮』(中村文則/新潮文庫)の読書感想文です。「折鶴事件」という猟奇的な密室殺人事件の真相に迫ると同時に、主人公の心の闇に深く切り込んでいく作品。物語性と心理描写が絶妙なバランスで両立されています。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。

『迷宮』のあらすじ

「カラフルな折鶴に埋もれて、全裸で、何かの本質のようでしたよ。上手く言えませんが」

あらすじ

日置事件(通称:折鶴事件)は、1988年に東京都練馬区の民家で発生しました。日置剛史(45)、妻の由利(39)、そして長男(15)の3名が殺害され、長女(12)だけが生き残ります。殺人現場は、遺体を囲むように312個の折鶴が色鮮やかに配置されていました。弁護士事務所で働く新見は、この殺人事件の唯一の生存者である紗奈江と、偶然知り合い、関係を持ちます。そして、折鶴事件の真相を確かめるため、奔走します。そこで明らかになる真実と新見の抱える心の闇の行方はー?
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『迷宮』の感想と考察(ややネタバレ)

モロケン
『迷宮』の感想文を書きます。ネタバレが嫌だよって人はコチラまで、進んでね!

さり気ない狂気の演出

まず、僕がこの作品を読んで、いいなと思った点は、さり気ない狂気です。

例えば、このような描写。

所有して欲しいの。あなたのものにして欲しいの。あなたが私のものにならなくても、私があなたのものになるから。たまに来るなんて嫌なの。もっと可愛がって欲しいの。殺してもいいの。好きなようにして欲しいの。

非常に印象に残ります。

ただ、完全に狂っているわけではなく、狂気がそっと滲みでているところが素晴らしいと思います。そこにリアリティがあって、「あぁ、こういう人、どこかにいるよね」と思わせるところが絶妙なバランス感覚だなと思いました。

猟奇的な美しさは人を狂わせる

『迷宮』は、ミステリー作品だと思いますが、僕は事件の真相にはあまり関心がありませんでした。それよりも、「新見はなぜ折鶴事件に関心を持つのか?」「紗奈江は生き残って、精神的にどう歪んだのか?」といった、彼らの内面について深く知りたいと思いました。

新見は、小さい頃は分裂症気味で、架空の存在”R“を創り出していました。精神科医の治療というよりも、時間の経過によって、”R”は消滅していったのですが、折鶴事件と関わるにつれて、その人格が見え隠れします。人を狂わせるような何かが、折鶴事件にはあるのでしょうか?

それは、この事件が、猟奇的である一方、美しさも兼ね備えているからだと思います。

完璧な密室殺人、色鮮やかな折鶴、そして殺された由利の遺体。

人間の本能は美しさを求めていると思います。それは理性で抑えることができないものです。強弱は個人差があり、新見は特別、その欲求が強いのでしょう。そして結果的に狂っていき、世間の常識から外れた思考を持つに至ります。

紗奈江の精神の複雑性

紗奈江の精神は、複雑だと思います。

それは、自分の精神を管理するコントローラーのようなものを、彼女が無自覚に手離しているからだと思います。

それは、話の結末を読めば、わかるでしょう。

紗奈江の内面について、もう少し考察したいとは思いますが、そうすると完全にネタバレになってしまうので、泣く泣くやめておきます。ぜひ本書を手にとって、彼女の心理について思いをめぐらせてみてください。

『迷宮』はこんな人におすすめ!

モロケン
中村文則という作家に興味がある⋯。

さりげない狂気とはどういうものだろうか?
文学青年

サブカル
猟奇的殺人事件の真相が気になる⋯。


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あとがき:迷宮

『迷宮』(中村文則/新潮文庫)の読書感想文でした。『迷宮』の結末は、完全なハッピーエンドとはいきませんが、まずまず希望を感じさせるものだと思います。物語性と心理描写がうまく両立されていた作品で読んでて夢中になりました。中村文則の他の作品もどんどんレビューしていきます。

モロケン
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