ミステリー

●【書評】『去年の冬、きみと別れ』(中村文則)_芸術に狂う者が一線を越える瞬間

2017年7月17日

『去年の冬、きみと別れ』(中村文則/幻冬舎文庫)の読書感想文です。複雑怪奇なストーリーは、読む人の好奇心を擽ります。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。

『去年の冬、きみと別れ』のあらすじ

“真の欲望は隠される”

「去年の冬、きみと別れ」は、ライターの”僕”が、死刑囚である木原坂雄大(カメラマン)の起こした猟奇殺人事件(女性2名を焼き殺す)を、本にするために、関係者に取材をおこなうという設定で進行します。雄大の姉・朱里、”K2″のメンバー、人形師の男…。本人が気づいていない真の欲望と、人がその「一線」を越えてしまう「瞬間」と、その「領域」にまつわる物語です。

『去年の冬、きみと別れ』の感想と考察(ややネタバレ)

『去年の冬、きみと別れ』の感想と考察を書きます。ネタバレが嫌だよって人はコチラまで、進んでください。

ストーリーもいいが登場人物の内面に注目

『去年の冬、きみと別れ』は、ミステリーの要素が強いので、ストーリーの面白さだけでも、楽しめる作品となっています。その仕掛けは複雑怪奇、初読で見破るのは、至難の業です。ただ、ご都合主義なところもある点がややマイナスです。

しかし注目すべき点は、ストーリーよりも、登場人物の内面を掘り下げている描写でしょう。

特に、朱里(正確には⋯⋯わかりますね?)は、いい味を出していたと思います。

「あなたでは無理ね」
「え?」
「私達の領域にまで、来ることはできない」

彼女の抱える闇は、本作の登場人物の誰よりも、深かったのではないでしょうか。

芥川の地獄変

本作では度々、芥川の「地獄変」が引き合いに出されています。

絵に狂った絵師が、自分の娘が実際に焼け死んでく様子を見、それを絵に描く。その後絵師は自殺しますが、残ったその地獄変の描かれた屏風は凄まじい芸術性を放つ・・・。

「地獄変」が今回の事件に近しい状況であったためです。

  • 絵師→雄大
  • 娘→モデルの女性
  • 屏風→写真

唯一、異なった点は作品に芸術性が宿らなかったことです。
そう、雄大は凡庸だったのです。

本当に才能を感じさせる登場人物は、人形師だけでした。

彼の作る人形は、本物よりも美しい。
個人的には、彼の話をもっと、ふくらませても良かったのではないかと思います。

“M・M”と”J・I”の答え合わせ

最後に、”M・M“と”J・I“が誰であったか答え合わせをします。

前者は、木原坂雄大(白字)。

後者は、吉本亜希子(白字)。

ということで、よろしいでしょうか?

評価:『去年の冬、きみと別れ』はこんな人におすすめ

評価

芸術について考えることが好き!

人間の狂気に関心がある⋯。

不気味なストーリーを一気読みしたい。

中村 文則
1977年愛知県東海市生まれ。
福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。

あとがき:去年の冬、きみと別れ

『去年の冬、きみと別れ』(中村文則/幻冬舎文庫)の読書感想文でした。

ミステリーな展開も楽しめつつ、人間の暗部に迫った、いい作品でした。
うん。僕は、中村文則さんの作品が、好きかもしれない。

中村文則おすすめ作品

第一位:『遮光』

主人公の男の恋人・美紀は事故で死んだ。しかし、周囲には美紀の死を伝えず、今でも美紀が生きているように嘯く。男は、黒いビニールで覆われた小瓶に異常な執着をみせ、常に持ち歩く。虚言癖の青年の恋愛と狂気が紙一重で、揺れ動く様を描いた傑作。

ココが読みどころ!

  • 主人公が大切にする黒い袋の中の小瓶の正体とは?
  • 行き場のない狂おしい愛を抱えた男の末路とは?
  • 主人公が虚言を吐き、演技を続ける理由とは?


第二位:『掏摸』

主人公の男・西村は、東京でスリを生業とする。彼のスリの技術は超一級で、孤独だが不思議な平穏の元、日々を暮らしていた。ところがある日、「木崎」という闇世界の住人と出会ってしまう。木崎に存在を知られたものは皆、掌で踊らされ悲痛な結末が待っている。西村は、自身の「運命」に光を見出すことができるのかーー?

ココが読みどころ!

  • 作中にたびたび登場する「塔」が象徴するものとは?
  • 心を閉じ暗い世界に居座り続ける意志を否定できるか?
  • 他人の運命を管理下におき快感を得ることはフィクションか?


第三位:『迷宮』

日置事件(通称:折鶴事件)は、1988年に東京都練馬区の民家で発生しました。日置剛史(45)、妻の由利(39)、そして長男(15)の3名が殺害され、長女(12)だけが生き残ります。殺人現場は、遺体を囲むように312個の折鶴が色鮮やかに配置されていました。弁護士事務所で働く新見は、この殺人事件の唯一の生存者である紗奈江と、偶然知り合い、関係を持ちます。そして、折鶴事件の真相を確かめるため、奔走します。そこで明らかになる真実と新見の抱える心の闇の行方はー?

ココが読みどころ!

  • さりげない狂気から滲み出てくる美しさの正体とは?
  • 折り鶴事件の真相を追いかける主人公の心情とは?
  • 架空の存在「R」は何を象徴しているのか?

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