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★ 【書評】『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』(桜庭一樹)_海野藻屑(うみのもくず)が放つ異彩

モロケン

未経験からフリーライターとして独立、起業。日給500円から始めて今では1記事5万円も珍しくない。いつまでも純粋さを大切にしたい。

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』(桜庭一樹/角川文庫)の読書感想文です。薄い本ですが、内容は衝撃的でした。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』のあらすじ

中学生の山田なぎさに必要なのは、リアリズムという”実弾”でした。それ以外のことには、決して興味を向けなかったなぎさ。一方、ある日、突然やって来た不思議な転校生・海野藻屑は空想という名の”砂糖菓子の弾丸”を撃ち続けていました。その弾丸を浴びせられ続けたなぎさは、次第に藻屑に心を開いていきます。しかし、海蘊は日夜、父親からの暴力に曝されており、とうとうーーー。胸の中を掻き毟られる痛みに満ちた青春文学です。

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の感想と考察(ややネタバレ)

「ぼくはですね、人魚なんです」

転校初日の挨拶でこう言ってのけた不思議系美少女、それが海野藻屑(うみのもくず)です。

空想という砂糖菓子の弾丸を撃ち続ける藻屑

当然、クラスメートの反応はドン引きで、どんどん藻屑のまわりから人はいなくなっていきます。そんな中、意図せず彼女の太腿からのぞく数カ所の痣を見てしまったなぎさは、なんとなく彼女のことが気になり始めます。藻屑も、なぜかなぎさとは仲良くなりたいらしく、足を引きずるような歩き方でペタペタとなぎさを追いかけながら、話しかけます。

二人の仲が良くなるにつれて、なぎさは、藻屑が抱えている闇の深さを知ることになります。

 ・・・もうずっと、藻屑は砂糖菓子の弾丸を、あたしは実弾を、心許ない、威力の少ない銃に詰めてぽこぽこ撃ち続けているけれど、まったくなんにも倒せそうにない。

子供はみんな兵士で、この世は生き残りゲームで。そして。

藻屑はどうなってしまうんだろう・・・?

作中にも描かれていますが、「13歳」という年齢は、何かを変えるには、まだまだ幼すぎます。藻屑が受けている暴力も、なぎさにはどうすることもできない。もちろん、藻屑自身もどうすることもできない。

何かを変えるということは、生き残って”大人”になって初めて、できることです

その事実が、ただただ、悲しい

冒頭で描かれた「死」から逃れることはできない

 
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』は、冒頭でいきなり藻屑がバラバラ死体となって、発見されることが、決定されています。読者はそのことを念頭においた上で、物語を読み進めるわけです。藻屑は、確かに、嘘つきだし、口も悪いし、好戦的で、誰からも愛される少女というわけではありません。むしろ、その対極にあるのが、彼女です。

 でも、作品を読んで、藻屑のことを知っていくうちに、読者は彼女に親しみを覚えるようになります。少なくとも僕は、藻屑というキャラクターを好きになっていました。それでも、初めに突きつけられた事実は決して覆ることは、ありません。この「やるせなさ」は、何とも表現し難い痛みを伴いましたが、藻屑という存在が放つ儚さを表現するために不可欠な設定だったと思います。

だけど、僕は藻屑が撃つ砂糖菓子の弾丸をもっともっと見ていたかった・・・。

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』はこんな人におすすめ

  • 題名の奇抜さに魅力を感じた人
  • 短いながらも心を打つ物語を読みたい人
  • 藻屑というイカレたキャラに興味がある人

あとがき:砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』(桜庭一樹/角川文庫)の読書感想文でした。本作を読んで桜庭一樹の作品に対する印象が大きく変わりました。藻屑というキャラクターが大好きだったので、それを生き生きと描いてくれたこの作品に★(5 point)の評価をつけます。桜庭一樹の他の本も読んでいきます。

♦︎桜庭 一樹(さくらば かずき)
1971年、鳥取県米子市出身。
鳥取大学卒業。女性。
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