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●【書評】『モノクロの君に恋をする』(坂上秋成)_恋愛×漫画の青春ストーリー

モロケン

未経験からフリーライターとして独立、起業。日給500円から始めて今では1記事5万円も珍しくない。いつまでも純粋さを大切にしたい。

『モノクロの君に恋をする』(坂上秋成/新潮文庫nex)の読書感想文です。尖っているが味わいのある登場人物たちが微笑ましい作品。あらすじと感想・考察(ややネタバレあり)を書きます。

『モノクロの君に恋をする』のあらすじ

浪人覚悟で受験した大学に合格した小川卓巳は、超がつくほど漫画が好き。流されるまま、漫画サークル「パラディーゾ」に入った卓巳を待っていたのは、グラサンと元ヤンと極道女とナルシストの先輩 + 同期の美少女・天原陽美(あまはらみなみ)と漫画について熱く語り合う日々でした。それは、卓巳が思い描いていた薔薇色のキャンパスライフとは違っていましたが、漫画に対する情熱をはじめて共有できる仲間ができたことに、喜びを感じる卓巳。ある日、先輩が「プリズン」と呼ばれる部屋への扉を開けた時、目の前に広がっていた光景とはーー。

『モノクロの君に恋をする』の感想・考察(ややネタバレ)

「モノクロの君に恋をする」は、とにかく”漫画に対する愛“が人と人を繋ぎあわせることを感じた作品でした。

パラディーゾにはガチの漫画好きしかいない

 バラディーゾには入部試験があったのですが、この問題がとってもガチ

 ちょっと見てみましょうか。

1. 貴様の魂を震えさせた漫画を三つ挙げ、それぞれについて理由を述べよ。
2. 貴様は漫画家にとって最も大切なものを何だと考えているか、述べよ。
3. 百合とBLに対する貴様のスタンスについて、語れ
…以下省略

 ね、ガチだったでしょう?(笑)

 でも、漫画に対する愛がある人が、この問題を前にしたら、わくわくしてしまうという気持ちは理解できます

こういうわけで、バラディーゾには、本当に漫画を愛している人しか入ることができなくなっています。

仲間と語り合い漫画を描くことに没頭する日々

 卓巳は、ある日、陽美が描いている漫画を見ました。 そこで、クオリティーの高さに驚きます

 彼自身、何度か漫画を描いた経験はあったのですが、周囲から酷評を受けると、モチベーションが上がらず、創作する意欲がなくなっていました。

 そんな時に、陽美の原稿とその裏で行われた努力を見せつけられた卓巳は、奮起して、漫画をきちんと描ききることを決意します。

 卓巳は「プリズン」に入って、先輩たちも漫画を描いていて、それぞれ完成度が非常に高い、ということを知ります。

しかし、彼らも完璧ではありません。

 それぞれ、プロの漫画家になるための「あともう一歩」が足りないという感じだったのです。

 彼らは、漫画について熱く語り合うだけではなく、プロの漫画家を目指す仲間として、一致団結していました。

 卓巳は普段のおちゃらけた態度とは違う、先輩の一面を知り、彼らに憧れを抱き、より精力的に漫画に没頭します。

天真爛漫な陽美の心にある闇

 
 そんなバラディーゾの信頼関係に水をさしたのは、意外なことに、陽美でした。

 彼女は、天真爛漫な性格の裏に黒くドロドロした感情を宿していたのです。

 退部届けを提出した陽美に卓巳は思いのたけをぶちまけます。

 その瞬間に、卓巳は、正直な自身の感情と向き合い、成長したのです。

趣味は人と人の間に信頼を植え付ける

 
 「モノクロの君に恋をする」は、”本音“がいっぱい詰まっている本だと思いました。

 それは、彼らの中に信頼関係があって初めて、顕在化します。

 その信頼関係の土台となっているのが、”漫画愛“です。

 漫画が好きで、読んだり、描いたり、してきた”時間”は、処世術にはならないけれども、決して無駄ではないのです。
 
 僕は小説が好きです。

 小説を読むことで、感情を大きく動かされたり、視野が広がったり、する瞬間が好きです。

 小説は一見役に立たなそうだけれど、この作品を読んで、小説に対する愛は、誰かと繋がるための、土台となりうるかもしれない、そんなことを考えました。

『モノクロの君に恋をする』はこんな人におすすめ

  • 漫画愛なら誰にも負けないという人
  • 良質なエンターテインメント小説を読みたい人
  • 目の前のことにヤル気が出ず沈んでいる人

あとがき:モノクロの君に恋をする

『モノクロの君に恋をする』(坂上秋成/新潮文庫nex)の読書感想文でした。最後まで読むのが勿体無い、という感覚を久しぶりに味わいました。もっと、彼らの愉快な世界に浸っていたかったです。とてもオススメです。

♦︎坂上 秋成(さかがみ しゅうせい)
1984年東京生まれ。
早稲田大学法学部卒業。
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