『モノクロの君に恋をする』(坂上秋成/新潮文庫nex)の読書感想文です。尖っているが味わいのある登場人物たちが微笑ましい作品。あらすじと感想・考察(ややネタバレあり)を書きます。
『モノクロの君に恋をする』のあらすじ
『モノクロの君に恋をする』の感想・考察(ややネタバレ)
「モノクロの君に恋をする」は、とにかく”漫画に対する愛“が人と人を繋ぎあわせることを感じた作品でした。
パラディーゾにはガチの漫画好きしかいない
バラディーゾには入部試験があったのですが、この問題がとってもガチ。
ちょっと見てみましょうか。
1. 貴様の魂を震えさせた漫画を三つ挙げ、それぞれについて理由を述べよ。
2. 貴様は漫画家にとって最も大切なものを何だと考えているか、述べよ。
3. 百合とBLに対する貴様のスタンスについて、語れ
…以下省略
ね、ガチだったでしょう?(笑)
でも、漫画に対する愛がある人が、この問題を前にしたら、わくわくしてしまうという気持ちは理解できます。
こういうわけで、バラディーゾには、本当に漫画を愛している人しか入ることができなくなっています。
仲間と語り合い漫画を描くことに没頭する日々
卓巳は、ある日、陽美が描いている漫画を見ました。 そこで、クオリティーの高さに驚きます。
彼自身、何度か漫画を描いた経験はあったのですが、周囲から酷評を受けると、モチベーションが上がらず、創作する意欲がなくなっていました。
そんな時に、陽美の原稿とその裏で行われた努力を見せつけられた卓巳は、奮起して、漫画をきちんと描ききることを決意します。
卓巳は「プリズン」に入って、先輩たちも漫画を描いていて、それぞれ完成度が非常に高い、ということを知ります。
しかし、彼らも完璧ではありません。
それぞれ、プロの漫画家になるための「あともう一歩」が足りないという感じだったのです。
彼らは、漫画について熱く語り合うだけではなく、プロの漫画家を目指す仲間として、一致団結していました。
卓巳は普段のおちゃらけた態度とは違う、先輩の一面を知り、彼らに憧れを抱き、より精力的に漫画に没頭します。
天真爛漫な陽美の心にある闇
そんなバラディーゾの信頼関係に水をさしたのは、意外なことに、陽美でした。
彼女は、天真爛漫な性格の裏に黒くドロドロした感情を宿していたのです。
退部届けを提出した陽美に卓巳は思いのたけをぶちまけます。
その瞬間に、卓巳は、正直な自身の感情と向き合い、成長したのです。
趣味は人と人の間に信頼を植え付ける
「モノクロの君に恋をする」は、”本音“がいっぱい詰まっている本だと思いました。
それは、彼らの中に信頼関係があって初めて、顕在化します。
その信頼関係の土台となっているのが、”漫画愛“です。
漫画が好きで、読んだり、描いたり、してきた”時間”は、処世術にはならないけれども、決して無駄ではないのです。
僕は小説が好きです。
小説を読むことで、感情を大きく動かされたり、視野が広がったり、する瞬間が好きです。
小説は一見役に立たなそうだけれど、この作品を読んで、小説に対する愛は、誰かと繋がるための、土台となりうるかもしれない、そんなことを考えました。
『モノクロの君に恋をする』はこんな人におすすめ
- 漫画愛なら誰にも負けないという人
- 良質なエンターテインメント小説を読みたい人
- 目の前のことにヤル気が出ず沈んでいる人
あとがき:モノクロの君に恋をする
『モノクロの君に恋をする』(坂上秋成/新潮文庫nex)の読書感想文でした。最後まで読むのが勿体無い、という感覚を久しぶりに味わいました。もっと、彼らの愉快な世界に浸っていたかったです。とてもオススメです。