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★【書評】『みかづき』(森絵都)の描く理想の教育を追い求める家族の絆

2017年5月3日

『みかづき』(森絵都)の読書感想文です。

森絵都にとって、5年ぶりの大長編で、ファンは切望していたでしょう。

本屋大賞ではくしくも2位でしたが、素晴らしい作品です。

※ほぼネタバレ無し

『みかづき』(森絵都)のあらすじ

 昭和36年、小学校の用務員である大島五郎は、放課後、用務員室で、生徒に勉強を教えていました。

 評判はとても良く、それは、大島教室と呼ばれました。

 その噂を聞きつけた赤坂千秋は、娘の蕗子を偵察に行かせました。

 それが、この壮大な教育物語の幕開けだったのです。

『みかづき』(森絵都)の書評/感想

 「大島さん。私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです。

 太陽の光を十分に吸収できない子どもたちを、暗がりの中で静かに照らす月。

 今はまだ儚げな三日月にすぎないけれど、かならず、満ちていきますわ」(千秋)

 この物語は、五郎、千秋、そして孫の一郎の視点から語られています。

 昭和36年から始まるこの物語は、各章ごとに時代が異なり、五郎と千秋が立ち上げる塾を取り巻く環境もまた、変化していきます。

 「本当の教育とは?」。

 その問いの答えを必死に体現しようとする登場人物たち。

 また、それと同時に、「家族の絆とは?」も大きなテーマとなっています。

 

本当の教育とは?

 
 まず、教育に関してですが、「理想の教育」を実現しようとするキャラクターのアプローチはそれぞれ異なります。

 例えば、補習を中心として、生徒の好奇心を育てるアプローチであったり、自分で考える力を養う、予習を中心としたアプローチ、金銭的に余裕のない家庭に無償で授業を行うボランティア的アプローチ、など様々です。

 作品の中でこうした数々の具体例を見ることができるのは、森絵都のリサーチ力によるものだと思います。

 国の教育方針や公教育の現場など、がわかりやすく作品の中に取り入れられており、作品の背骨となる部分がとてもしっかりしている印象を受けました。

 そのことによって、この小説は当然フィクションですが、非常に現実感をもって、作品を読み進めることができます。

 彼女の作品は『つきのふね』と『カラフル』しか読んだことなかったのですが、こんなに、社会学的な作品も書かれるんだなと、とても感銘を受けました。

 僕は、小4~小6まで塾(四谷大塚)に通って中学受験をして千葉で2位くらいの中学に入り、高1~高3まで塾(代々木ゼミナール)に通い、現役で一橋、慶應、上智大学などに受かりました。

 大学時代では、アルバイトで家庭教師を2年間ほどやっていました。

 ですので、わりと教育界隈の話は身近に感じることができます。

 僕の意見は、とりあえず、公教育はほとんど役に立たないです。

 塾と自習が重要かと思います。

 あ、でも、受験で小論文とか英作文とか出る人は学校の先生に添削してもらえると捗りますね。

 ほんとに勉強の仕方は個人の性格や資質によるものがかなり大きいと思うので、「理想の教育とは?」みたいな問いに対する絶対的な答えはないんじゃないかと思います。

 この作品風に言えば「月は決して満ちることはない」といったところですね。

 

家族の絆とは?

 
 次に、「家族の絆とは?」に関してですが、これは本当に素晴らしく描かれていたと思います。

 特に長女の蕗子の発言などは、すごく感動的なものが多く、何度も枕を濡らしました。

 千秋も五郎視点でみると「鉄の女」のような感じなのですが、千秋視点に立ってみると色々なこと考えていたんだなあと、これもかなり感動的です。

 うん、泣ける作品でした。

 どうして、こんなに泣けるんだろうなあって考えたんですが、思ったのは、登場人物の人間味を醸しだすのがとても上手なんじゃないかということです。

 千秋同様、次女・蘭も何を考えているかよくわからないまま話が進んでいたのですが、ある日、その内面をほろりと露わにする出来事があり、そこから一気に蘭のことが好きになったり…。

 そうですね、きっと登場人物を好きにさせるのが重要だったのかもしれないです。

 これだけ、社会学的な作品ながら、心理描写も素晴らしくて、とても偉大な作品だなと改めて思います。

あとがき:『みかづき』(森絵都)

 今回は、森絵都さんの『みかづき』の感想を書きました。

 僕が、この作品を読んで真っ先に思ったのは、「なぜ本屋大賞1位じゃないんだ?」ということでした。

 どれだけ『蜜蜂と遠雷』(恩田陸)すごいんだと。

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♦︎森 絵都(もり えと)
1968年東京都生まれ。
早稲田大学第二文学部卒業。

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