日常・青春・恋愛

● [書評]面白おかしい『きりこについて』(西加奈子)は内面を鍛える大切さを教えてくれる

モロケン

未経験からフリーライターとして独立、起業。日給500円から始めて今では1記事5万円も珍しくない。いつまでも純粋さを大切にしたい。

『きりこについて』(西加奈子)の読書感想文です。西加奈子ファンである僕ですが、この本は表紙がとっても可愛くて、直感で購入しました。内容も相変わらずユーモアに溢れていて、魅力的な作品でした。

※ほぼネタバレ無し

『きりこについて』(西加奈子)のあらすじ

黒猫の「ラムセス二世」は、小学生の「きりこ」に拾われました。

「きりこ」は両親の愛を全身に浴びながら育ったため、初恋の相手に”ブス”と言われるまで、自分の顔が”ブス”であることに気が付きませんでした。

現実を知った「きりこ」は、部屋に引きこもり、ラムセス2世をはじめとする猫達とだけ関わる生活をおくっていましたが⋯⋯。

『きりこについて』(西加奈子)の書評/感想

 この作品は「きりこは、ぶすである。」という一文から始まります。

 しかも、そう断言するだけでなく、客観的にどのくらいブスであるかを徹底的に描写しています

 顔の輪郭は、空気を抜く途中の浮き輪のように、ぶわぶわと頼りなく、眉毛は、まるで間違いを消した鉛筆の後だ、がちゃがちゃと、太い。

 その下にある目は「犬」とか、「代」などの漢字の右上の点のようで、それが左右対称についている。

 鼻は、大きく右にひしゃげていて、アフリカ大陸をひっくり返したようである。

 唇だけは思い出したように赤く、つやつやと光っているが、アラビア文字のように難解に生えている乳歯が抜けた後、また同じように、難解な並び方で永久歯が生えてきている。

 顎はない。

 ないというか、そのままなだらかに首(首もないのであるが。後述)とつながっていて、どこにあるのか、探そうにも、探せない。

 耳は、ゆであがったパスタのようにつるんとしており、黒髪は豊かで、ほとんど青いほど、でも、いかんせん顔の印象に引っ張られて、行き場をなくし、どこか自信なさげに、頭に喰らいついているという、按配。

 こんなに”ぶす”であることに対して、詳細に記述した文章はあるのでしょうか(笑)

 この描写が作品の冒頭にあることで、読者はきりこがどういう容姿をしているか、具体的に想像しながら、文章を読み進めることができます。

 それだけではなく、きりこの容姿についてこき下ろすことによって、この作品の大きなテーマである「容姿(容れ物)と内面」についての考え方を提起することにつながっています。

「うちは、容れ物も、中身、も込みで、うち、なんやな」

 ”ぶす”であることから普通の社会生活をおくれなかったきりこ。

 物語が進み、成長していくにつれて、きりこが見つけて行った哲学が、一見ありきたりな意見のようですが、巧みなエピソードによって描かれていて、読者の前に圧倒的な説得力を持って、提示されます。

 次の文章は、この作品のなかでも、僕がもっとも好きだと思った箇所です。

 私(ラムセス二世)を見つけ、つぶれた鼻で、白玉を投げ出し、犬の点みたいな目をして、私を抱き上げ、難解な歯並びをして、頬ずりし、ずるずると頼りない輪郭をして、ずっと眠って、アゴからすぐ首で、猫たちと話し、悲しさを背負って、喜びに気づく。

 ぶすのきりこ。

 きりこの、すべてが、きりこ、なのだ!

 そして私は、そんなきりこを、愛したのだ!

 この文章を読んだ時に、きりことラムセス二世との間における絶対的な信頼関係を感じ、ぶすなきりこをとても愛おしく思いました

 きりこが成長するにつれて、手に入れていった確固たる自分のようなものが、僕にあるのでしょうか。

 自信を持って言えます。

 「いいえ、ありません」。

 僕は僕に自信がほんとにないのです。

 どうしたら、きりこのように強く生きれるでしょうか。

 この物語には、そのヒントが散りばめられていたように感じました。

 それは、「自分は自分だと言い切ること」、「他者を容れ物で判断しない」といったことのように思えます。

 僕は、今はとある事情により、普通の社会生活をおくれていません。

 それを引け目に感じることが多々あります。

 そんな弱い自分ですが、やりたいこと、実現したいことはあります。

 それを、他人と比べないで、しっかり行っていくこと、その勇気をこの本からもらったような気がします。
 
 また、僕は他人を容れ物で判断しているでしょうか?

 これは、潜在的にですがyesだと思います。

人生も経験を積み重ねていくと容姿で内面を判断する力が形成されていきます、あるいはされていくような気がします。

 それは、実はちょっと危険で、人の気持ちを踏みにじることがあります。

 この作品の中ではAV女優のちせちゃんがその被害者だったりします。

 それを避けるために、容れ物だけで人を判断せず、しっかり対話することが大事ですね。

 昨日、僕は、twitterでちょっと惹かれていたアーティストの方の個展に行きました。

 作品も購入して、部屋に飾り、満足しているのですが、一番嬉しかったのは、アーティストの方とお話できたことです。

 それは、僕がその方に会うまでに抱いていた印象と少し違っていました。

 実際に会って、対話することの重要性をそこでも感じました。

評価:『きりこについて』はこんな人におすすめ!

評価

モロケン
猫がめっちゃ好き!

容姿だけで人を判断したくない。
文学青年

サブカル
きりこがどうやって成長していくのか知りたい。

あとがき:『きりこについて』(西加奈子)

 今回は西加奈子さんの作品である『きりこについて』の記事を書きました。

 作品は、西加奈子ワールド全開という感じで、自由な表現がされています。

 内容はとても面白くて、評価はかなり高いです。

 猫の話がいっぱい出てくるので、猫好きな方はぜひとも読んでみたらいかがでしょうか?

♦︎西 加奈子(にし かなこ)
1977年イラン、テヘラン生まれ。エジプト、大阪府堺市育ち。
関西大学法学部卒業。
\この記事はいかがでしたか?/
  • この記事を書いた人

モロケン

未経験からフリーライターとして独立、起業。日給500円から始めて今では1記事5万円も珍しくない。いつまでも純粋さを大切にしたい。