『さくら』(西加奈子)の読書感想文です。
『さくら』は、2005年に小学館から出版された西加奈子の2作目です。
西加奈子の初期の文体を味わうことができます。
この記事では『さくら』のあらすじ、書評・感想について紹介します。
『さくら』のあらすじ
年末、家に帰ります。 おとうさん
主人公・長谷川薫は、家出していた父親から家に帰るという手紙を受け取り、帰省します。
薫が帰省する長谷川家はかつて「幸せ」な家族でした。 物静かでやさしい父親、太陽のように陽気な母親、人気者の兄・一、超美形の妹・ミキ、3人の孫をこよなく愛するおばあちゃん、それから飼い犬の「サクラ」。「サクラ」という名前は、見つけてきた時に尻尾にピンクの花びらをつけていたから。 そんな無敵の家族だった6人と一匹が「ある出来事」によって、一転、崩壊し始めます。
それは、一の「死」でした。
父親は家出し、母親は肥満になり酒に溺れ、薫は東京に行き、ミキは内に篭もりました。「サクラ」は12歳になりもう立派なおばあちゃんです。 そんなすっかり昔の面影がない家族が「再生」へと向かっていく。 それが「さくら」という物語です。
『さくら』の感想
他のブログの感想を眺めていると、「犬のサクラが存在する必要性がわからない」という意見が多いみたいで少し驚きました。 確かに、サクラがストーリーに大きな影響をもたらしたかというと、そうではないと思います。 しかし、家族の誰からも愛されるサクラの話す(?)言葉は、作品に親しみをもたせるために、必要だったと思います。 さらに、「おわりの章」で、サクラの具合が悪くなり、父親が車を暴走して病院を探すシーンでは、サクラという存在が「家族の絆」にとって、とても重要で象徴的な存在であることを示しています。 だから、サクラはこの物語を味わい深くするために不可欠だったのではないでしょうか。
また、「登場人物が特殊すぎて共感ができない」という方もいるみたいです。 これは一理あるかもしれません。
兄ちゃんはそのモテぶりで伝説を作ったけど、ミキは、モテプラス乱暴者ぶりで名を馳せたのだ。
平凡な薫とは違って、一とミキは、注目の的でした。また、出てくる登場人物も、レズビアン、帰国子女、ゲイ、キ○ガイ、変態獣医、などなど、パンチが効いているキャラが多いです。 それが、読者の方の日常から、かけ離れすぎているために、親しみを持てないというのは、そうかもしれないと思いました。 思えば、西さんの作品にはかなり個性的な登場人物が数多く現れる傾向があると思います。 これは、帰国子女である西さんのバックグラウンドと大きな関係があるでしょう。ですので、ちょっと視点を変えてみて、共感を持てないと考えるのではなく、多様性を楽しむと考えれば、もっと作品が違ってみえるかもしれませんね。
『さくら』はこんな人におすすめ
- 可愛いペットを飼っている人
- 「家族の絆」という言葉に弱い人
- 初々しい西加奈子さんの文体を楽しみたい人
あとがき
西加奈子の「さくら」について記事を書きました。 面白い作品だったんですが、やはり、現在の西さんの作品と比べると荒削りな部分があるように思えました。 すぐ泣いてしまう僕ですが、この作品では泣きませんでした。 でも、動物系が弱い人だと、ヤラれる可能性は高いと思います(笑)最後まで読んでいただき、ありがとうございました。