ミステリー

● 【書評】『暗いところで待ち合わせ』から「乙一」の作風を考察する

『暗いところで待ち合わせ』(乙一/幻冬舎文庫)の読書感想文です。表紙の絵からしてインパクトが大きい作品ですよね。少し不気味な雰囲気が漂いつつも、楽しく読むことができました。あらすじと感想・考察(ネタバレなし)を書きます。

『暗いところで待ち合わせ』のあらすじ

視力をなくし、閉じこもるミチル。 職場の人間関係に悩むアキヒロ。 駅で起きた殺人事件が二人を引き合わす。 容疑者となったアキヒロはミチルの家に逃げ込み、居間の隅でうずくまる。 ミチルはアキヒロの気配を感じるが、身を守るため、知らない振りをする。 奇妙な同棲生活が始まった。

『暗いところで待ち合わせ』の感想と考察(ネタバレなし)

 装画から「けっこうホラーな作品なのかな?」と思っていた僕の期待を、いい意味で裏切ってくれました。 確かに、不気味で奇妙な物語なのですが、ホラー要素はほとんどありません。 純粋で良質なミステリー小説でした。 ですので、怖いのが苦手な方もご安心くださいね。

まず思いつかないだろう特殊なプロット

 あらすじを読んでいただければわかるのですが、このお話の設定はかなり特殊です。 「盲目の女性宅に殺人容疑者の男性が同居する」 これは、なかなか思いつきませんよね^^; ちなみに、この設定は、本ブログでも紹介した「死にぞこないの青」という作品に組みこもうと思っていたプロットから引っ張ってきたものらしいです。乙一さんはこのことについて「枯渇する資源を大切にしなければと思いました」と述べています。 相変わらず面白いですね。

関連作品: 死にぞこないの青

登場人物の人間関係に対する達観

盲目」と「殺人」という要素を取り払ったとしても、ミチルとアキヒロには共通していることがあります。 それは、孤独であることに関して、二人とも達観した見解を持っているところです。 要は、自分の殻に閉じこもっているのです。 それが、物語が進むにつれて、変化していきます。 どのように、変化していくかは、ぜひ作品を読んで確かめてみてくださいね。これが、このお話の1つのポイントだと思います。

他人の視点で物事を考えることが上手い

僕がこの物語を読んでいて「すごいな」と思うことは、盲目の方が感じているであろう恐怖をとても的確に描写していることでした。 自分の家にいる時やガイドの人が傍にいる時には、自信を持って行動できていても、いざ、外の世界で白杖と共に置き去りにされると、圧倒的な恐怖が目の前に立ちはだかり、急速に不安を感じる、あるいは、一歩も動けなくなってしまう。 その心理が、とても巧みに描写されていて、乙一さんは、他人の視点で思考することが、本当にうまいなと思いました。 これは、彼の他の作品を読んでいても感じることです。

作品で人の行動を変える乙一のすごさ

白杖を持った方を外で見かけることは、そんなに珍しいことではありません。 この作品を読んで、彼らの普段、何気なくしている動作も、非常に勇気がいることで、長い努力を経た末にやっと獲得したものなんだと知りました。 もし、彼らが何か困っていたら積極的に助けにいかなければ。 そんなことを本を読みながらつらつらと考えました。

 このように、人の意識を変える小説を書くということは、きっと想像しているよりもずっと難しいことなのでしょう。 例えば、上から目線で説教をするように言われたとしても、人の意識は変わらないと思います。 しかし、乙一さんは、それを想像力と的確な描写によって、いともたやすくやってのけた。 それは、本当にすごいことなんだと思います。 また、そういう小説が高く評価されて、多くの人に読まれるといいなと個人的には思います。

評価:『暗いところで待ち合わせ』はこんな人におすすめ!

評価

パリピ
あらすじを読んで物語の設定に興味が湧いた!

ちょっと不気味な乙一の世界観を味わいたい⋯。
文学青年

サブカル
「視覚障害」にちょっと興味・関心がある

あとがき:暗いところで待ち合わせ

『暗いところで待ち合わせ』(乙一/幻冬舎文庫)の読書感想文でした。乙一の描く世界観は、とてもユニークです。 なにがどうユニークなのか、ということをうまく言語化できないのが少しもどかしいのですが、他の小説家の方と一線を画す何かが、彼の作品にはあると思います。 今後も、作品を読んで、その正体を言語化できるように精進していきたいと思います。

乙一(おついち)
1987年福岡県生まれ。
豊橋技術科学大学工学部卒業。
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