『夏と花火と私の死体』(乙一)の読書感想文です。
奇才・乙一のデビュー作です。
他の作品では味わったことのない読後感があります。
※ややネタバレあり
『夏と花火と私の死体』(乙一)のあらすじ
九歳の夏休み、少女は殺された。
あまりに無邪気な殺人者によって、あっけなくー。
こうして、ひとつの死体をめぐる、幼い兄妹の悪夢のような四日間の冒険が始まった。
次々に訪れる危機。
彼らは大人たちの追求から逃れることができるのか?
死体をどこへ隠せばいいのか?
恐るべき子供たちを描き、斬新な語り口でホラー界を驚愕させた、早熟な才能・乙一のデビュー作。
『夏と花火と私の死体』(乙一)の書評/感想
死体の一人称で淡々と進む物語
最後に、踏み台にしていた大きな石の上に背中から落ちて、わたしは死んだ。
この作品は、タイトルからわかる通り、主人公の少女・五月が冒頭でいきなり死んでしまいます。
「え、もう死んじゃうの?」と、あまりに唐突な展開に驚きを隠せませんでした。
しかし、それはまだ序の口でした。
なんと、友人であった子供たちは、大人にその事を知らせることはせずに、五月の死体を隠すために奔走するのです。
これは、すごいストーリーだなと思いました。
さらに、面白いと感じた点は、物語が、死体となった「一人称」の五月の視点から語られているということです。
普通は、死体が喋ったり、考えたりすることは、ありえませんよね。
そのようなありえない状況が、あたかも、当たり前であるかのように、淡々と描かれているのが、この作品の文体の大きな特徴だと思います。
サイコパスのさきがけ
この作品が発表された当時は、あまり有名な言葉じゃなかったでしょうが、近年、聞く機会が増えてきたように思える「サイコパス」という言葉があります。
サイコパスの定義は、意見が分かれるかと思いますが、大雑把に言うと、「反社会的行為を良心の呵責なしに行う人間の総称」といったところでしょうか。
この話でいうと、健くんという少年はまさに「サイコパス」と呼ぶにふさわしい人格です。
その、サイコパスっぷりは、非日常な物語を日常の物語であるかのように見せることに一役買ってます。
健くんの感情に注目して作品を読むのもいいかもしれません。
きっと、幼い身体に秘められた狂気を感じることができますよ。
総評すると、ごく短い物語であるにも関わらず、内容が非常に濃く、ストーリー構成も巧みで、結末を知りたいような知りたくないような話でした。
『夏と花火と私の死体』(乙一)はこんな人にオススメ!
こんな人にオススメ!
- 夏の怪談のようにぞくぞくする話を読みたい人
- 「サイコパス」に興味がある人
- 一風変わった文体を楽しみたい人
あとがき:『夏と花火と私の死体』(乙一)
今回は、『夏と花火と私の死体』(乙一)について感想を書きました。
デビュー当時は17歳だったこともあり、非常に注目を浴びた作品のようです。
乙一さんは、他の作品も読んだことありますが、どれも面白いです。
興味がある方はぜひぜひ読んでみてくださいね。
1987年福岡県生まれ。本名は安達寛高。
豊橋技術科学大学工学部卒業。