『虹色と幸運』(柴崎友香/ちくま文庫)。30代の日常をリアルに描いた作品です。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。
『虹色と幸運』のあらすじ
あらすじ
『虹色と幸運』の感想と考察(ややネタバレ)
『虹色と幸運』の感想と考察を書きます。ネタバレが嫌だよって人はコチラまで、進んでください。
三人称の多元小説
「虹色と幸運」で、特徴的なのは、三人称の多元小説だということです。
すなわち、小説の主体が、かなり頻繁に、入れ替わります。
それは、主人公の三人だけではなく、他の登場人物でも行われます。
当初は「少し読みにくい文体だな」と思いました。
しかし、読み始めてみると、スイッチの入れ替えが巧みなこともあり、まったく気になりませんでした。
それどころか、1つの事象あるいはテーマに対する考察が立体的になるという利点があり、非常に良かったと思います。
日常を描くことの意味について
「虹色と幸運」で描写される日常は、特に展開があるわけでなく、ごく平凡なものです。
「では、それらを描くことに意味はあるのでしょうか?」
僕はYESだと思います。
なぜなら、世の中の大半の人間が、非常にありきたりな日常を生きているからです。
確かに、展開がめまぐるしい作品は、読んでいて面白いです。
ですが、そのような作品は、現実世界の日常からは、かけ離れており、共感することは難しいと言えるでしょう。
一方、柴崎友香の日常に対する描写は、共感しやすいのです。
このことを僕は「作品が読者に寄り添ってくれる」と表現します。
柴崎友香は、作品を通じて、日常における「迷い」さえも肯定してくれます。
そのことに、僕は、すごくあたたかみを感じるのです。
ただ日常を生きることも楽ではない、現代の日本社会において、柴崎友香のような小説家の役割は、重要になっていくのではないでしょうか。
タイトルの「虹色と幸運」について
タイトルの「虹色と幸運」について、言及している箇所があったので、引用します。
他人の幸運はくっきりとよく見えるけど、自分の幸運はもやにつつまれたように、いやもっと濃い、雲の中にいるように、手さぐりで確かめるしかなくて、そこにあるのに、すぐに見えなくなってしまうのかもしれない。
この文章から、幸運は、多種多様であることがわかります。
これが、タイトルの”虹色”の由来となっているのではないでしょうか。
ちゃんとした大人って?
「虹色と幸運」では、”ちゃんとした大人“というワードが数多く登場します。
ここでは、”ちゃんとした大人”とは何かについて考察してみたいと思います。
一般的に、考えられる要素を並べてみると、
- 20歳(成人)をむかえていること
- 経済的に自立していること
- 結婚をして子供がいること
など、が挙げられると思います。
しかし、僕は、かおりが言うような「ちゃんとした大人になれる時なんてやってこない」という意見に同意します。
そもそも”ちゃんとした”という言葉が、すごく曖昧です。
ですので、個人的には、そんな言葉に縛られる必要などなく、ただ、目の前のことをやり遂げることを積み重ねていくことのほうが、人生において、重要だと思います。
評価:『虹色と幸運』はこんな人におすすめ
評価



あとがき:虹色と幸運
柴崎友香のおすすめ作品をランキング形式で紹介しています。本選びに悩んでいる方はぜひ参考になさってください。
『虹色と幸運』(柴崎友香/ちくま文庫)の読書感想文でした。「虹色と幸運」は、非常に興味深い作品だったのですが、アラサー女子の日常という、僕とはかけ離れたことについて、述べていたので、感情移入することが、ちょっと難しかったです。逆に、ハマる人にはハマる作品だといえるでしょう。
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