純文学

最後の命/中村文則_やや過激な描写から人間の本質に迫る

2020年1月18日

『最後の命』(中村文則/講談社文庫) の読書感想文です。本書は、やや過激な内容を含んでいます。しかしそれ故に、人間の本質が浮き彫りになります。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。

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『最後の命』のあらすじ

あらすじ

「お前に会っておきたい」7年振りに会った幼馴染みの冴木(さえき)とは、「ある事件」をきっかけに疎遠になっていた。冴木との再会後、私の部屋で1人の知り合いの女性が殺害されているのが見つかる。取り調べを受けていた私に、警察は「冴木が連続婦女暴行事件の指名手配犯である」という衝撃的な事実を伝える。捜査への協力を断り、自力で冴木を探す私。冴木は本当に犯人なのだろうかーー?人間の「命」をめぐる作品。

『最後の命』の感想と考察(ややネタバレ)

ここから、『最後の命』の感想と考察(ややネタバレ)を書きます。ネタバレが嫌な人は、コチラまで読み飛ばしてください。

やっちりの集団レイプ事件による影響

青いビニールシートの集落、その真ん中に、無数の影が集まっていた。その中心にいたのは、やっちりだった。彼らはやっちりの周りに群がり、その両手を押さえ、両足を押さえ、その抑えられた両足の間に、彼らのうちの一人が、自分の腰を打ち付けていた。

私と冴木が小学生のとき、ブルーシート集落で生活をするホームレスたちと仲良くしていました。ただ彼らの中にいた「やっちり」と呼ばれる女性は、知的障害者を持っていて、いつもぼんやりと座っているだけの存在です。私と冴木は、家出したことをきっかけにホームレスたちが、夜な夜なやっちりを集団レイプしていることを知るのです。

この事件は、私と冴木の性に大きな影響を与えました。私は、やっちりへの行為が汚らしいと拒絶反応を示しやや潔癖になりました。これに対して、冴木は(擬似)レイプをしないとセックスで興奮できないという特殊な性癖を持ちます。冴木は抑えられない性の欲求と闘いながら生きていくことになります。

「命」は厄介だということ

・・・ずっと覚えていなければならないんだよ。人間の命が、厄介だということを

『最後の命』の中で、私はさまざまな「」と関わることになりました。そして、「死」を割り切ることはできず、ずっと抱えて生きていかなければいけないという悟りを得るのです。

私は、作中でしばしば意図的に「死」に近づこうと試みます。「死」への恐怖を味わうことで「生」の安堵を感じることができるからです。これが主人公にとっての精神安定剤なのです。

僕(筆者)も、何度か自殺未遂をして「死」への恐怖を味わいました。すると不思議なことに、自分の中にまだ「生」への執着があることに驚くんですね。これに気づいたとき、僕は「死」という一線を越えることができない、と覚悟しました。

大人や社会への抵抗

「俺は、お前には、幸せになって欲しいんだよ。俺もお前も駄目になったら、何だか、世界に負けたみたいじゃないか」

大人や社会いわば「世界」への抵抗は、中村文則の作品では主要となるテーマのひとつです。しばしば中村文則は、「世界」を彼らと呼び、自分たちとは違うことを強調します。

私も冴木も、世界からみて社会不適合であることは、『最後の命』を読んでいたら自然とわかります。しかし両人とも、一生懸命に人生と闘っているのです。どちらも、先天的か後天的かに関わらず、問題を抱えています。でも、それらを言い訳にしたら、「世界」に負けることになるのです。

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『最後の命』はこんな人におすすめ!

過去のトラウマをいつまでも忘れられない⋯。

誰にも言えないが性癖に悩んでいる⋯。

大人や社会に対して負けたくない⋯。


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あとがき:最後の命

『最後の命』(中村文則/講談社文庫) の読書感想文でした。作品を読むと、『最後の命』というタイトルがどういう意味を持つのか、理解できると思います。『最後の命』は、中村文則の初期作品ですが、『遮光』や『土の中の子ども』より、読みやすく仕上がってます。目立たない印象の本書ですが、中村文則が多くの人に受け入れられるようになる変遷を追う意味で重要な作品です。未読の方は、ぜひご一読を。

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