『最後の命』(中村文則/講談社文庫) の読書感想文です。本書は、やや過激な内容を含んでいます。しかしそれ故に、人間の本質が浮き彫りになります。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。
『最後の命』のあらすじ
あらすじ
『最後の命』の感想と考察(ややネタバレ)
ここから、『最後の命』の感想と考察(ややネタバレ)を書きます。ネタバレが嫌な人は、コチラまで読み飛ばしてください。
やっちりの集団レイプ事件による影響
私と冴木が小学生のとき、ブルーシート集落で生活をするホームレスたちと仲良くしていました。ただ彼らの中にいた「やっちり」と呼ばれる女性は、知的障害を持っていて、いつもぼんやりと座っているだけの存在です。私と冴木は、家出したことをきっかけにホームレスたちが、夜な夜なやっちりを集団レイプしていることを知るのです。
この事件は、私と冴木の性に大きな影響を与えました。私は、やっちりへの行為が汚らしいと拒絶反応を示しやや潔癖になりました。これに対して、冴木は(擬似)レイプをしないとセックスで興奮できないという特殊な性癖を持ちます。冴木は抑えられない性の欲求と闘いながら生きていくことになります。
「命」は厄介だということ
『最後の命』の中で、私はさまざまな「死」と関わることになりました。そして、「死」を割り切ることはできず、ずっと抱えて生きていかなければいけないという悟りを得るのです。
私は、作中でしばしば意図的に「死」に近づこうと試みます。「死」への恐怖を味わうことで「生」の安堵を感じることができるからです。これが主人公にとっての精神安定剤なのです。
僕(筆者)も、何度か自殺未遂をして「死」への恐怖を味わいました。すると不思議なことに、自分の中にまだ「生」への執着があることに驚くんですね。これに気づいたとき、僕は「死」という一線を越えることができない、と覚悟しました。
大人や社会への抵抗
大人や社会いわば「世界」への抵抗は、中村文則の作品では主要となるテーマのひとつです。しばしば中村文則は、「世界」を彼らと呼び、自分たちとは違うことを強調します。
芥川賞受賞作の『土の中の子供』でも「彼ら」への反抗が示されていました。
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土の中の子供/中村文則_過去のトラウマと闘う覚悟はありますか?
主人公の男は、幼い頃に親に捨てられた。里子に出された先に待っていたのは圧倒的暴力。大人になると、タクシードライバーとなり、恋人・白湯子(さゆこ)とともに刹那的に生活をともにする。男の幼少期の記憶には、深い森の中で土に埋められた経験が色濃くトラウマとして残ります。不安定な精神のもと、彼は希望を見つけることができるのかーー。
私も冴木も、世界からみて社会不適合であることは、『最後の命』を読んでいたら自然とわかります。しかし両人とも、一生懸命に人生と闘っているのです。どちらも、先天的か後天的かに関わらず、問題を抱えています。でも、それらを言い訳にしたら、「世界」に負けることになるのです。
『最後の命』はこんな人におすすめ!



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あとがき:最後の命
『最後の命』(中村文則/講談社文庫) の読書感想文でした。作品を読むと、『最後の命』というタイトルがどういう意味を持つのか、理解できると思います。『最後の命』は、中村文則の初期作品ですが、『遮光』や『土の中の子ども』より、読みやすく仕上がってます。目立たない印象の本書ですが、中村文則が多くの人に受け入れられるようになる変遷を追う意味で重要な作品です。未読の方は、ぜひご一読を。

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