詩集『空が分裂する』(最果タヒ)を読んで、心に残った言葉を7つに厳選して、皆さまにお届けしようと思います。カリスマ詩人といわれる「最果タヒ」の作品に触れるきっかけとなれば幸いです。
『空が分裂する』から選んだ7つの言葉
エネルギーの保存則を使用して、今日から賛美歌をつくりたい
エネルギーの保存則を使用して、今日から賛美歌をつくりたい
この詩のタイトルにもある通り、「エネルギーの保存則」というのは、非常にシステマチックなお話です。いわば、科学の代名詞とも言えますね。その響きと「賛美歌」という非科学的な言葉の対比がミスマッチで、独特な雰囲気を表現していると思います。どちらも、美しさを兼ね備えている言葉なんだけれど、性質が違う言葉、それらを組み合わせることで、新しい文明の予感を感じさせていると思います。
朝焼けのころのかみなりは夜空が追われて地平線へと落ちていく、その合図にしか思えないね。
朝焼けのころのかみなりは夜空が追われて地平線へと落ちていく、その合図にしか思えないね。
ここで面白いと思った点は、「夜空が追われて地平線へと落ちていく」という点です。普通は、地平線へと落ちていくといえば「太陽」を指すでしょう。そして、朝焼けを表現するなら「太陽」が昇っていくと表現するでしょう。そういった一般的な概念とは裏腹に「夜空が落ちていく」それも、「追われて」落ちていくと書いているところが凄いです。夜空はもっと強い存在で形容されるはずなのに、ここでは、かみなりを合図にあたかも夜空が逃げていくみたいな印象が表現されていて、これも、「夜空」という概念を独特な視点で捉えているのだなあと感心しました。
空を飛ぶって聞いて飛行機と思う人はたくさんいるし、自殺と思う人もたくさんいる。
空を飛ぶって聞いて飛行機と思う人はたくさんいるし、自殺と思う人もたくさんいる。
自殺と思う人はそんなにたくさんいますかね?笑 僕だと、飛行機は勿論ですが、バンジージャンプとかスカイダイビングとかをイメージしてしまうと思います。まず、「空を飛ぶ」っていう言葉は、肯定的な解釈をされることが一般的だと思います。しかし、タヒさんはそれを自殺と結びつけた、しかも、たくさんいると表現した。このことは、彼女が既成概念にとらわれず、世界をフラットな視点で捉えていることに起因するんじゃないかなと思います。つまり、自殺は日々もの凄い数で成されていて、その中で飛び降り自殺がどのくらいの割合かはわからないけれど、そういった現実を客観的に感じているということだと思います。その感性はとてもユニークだと思いました。
いつも、空というものをあいまいに定義して、なんでも空と読んでいたらいいような気がしているよ。
いつも、空というものをあいまいに定義して、なんでも空と読んでいたらいいような気がしているよ。
これは解釈が難しいですが、いわばポジティブでシンプルな「空」という言語の意味を拡張して、他のもっと、ネガティブな言葉、複雑な言葉と代替すれば、それは「空」と同じように、ポジティブでシンプルな意味合いを持って、そうすれば、きっと世の中、もっと、生きやすいんじゃないか。そんな、メッセージがのっかっているではないかと思いました。
行ったこともないような、どこかの国で、ある日びょうきがはやるんだ、だれかが死んで、その人はおともだちだった いいおともだちだった
行ったこともないような、どこかの国で、ある日びょうきがはやるんだ、だれかが死んで、その人はおともだちだった いいおともだちだった
あったことがない人をどうしたらおともだちだと考えられるのだろうか? それも、いいおともだちだった、なんて。 僕は、自分のまわりのおともだちだけで手一杯なのに、知らない誰かもおともだちだったら、それは忙しいに違いない。 さぞ、悲しい出来事に心を痛めるに違いない。 だから、きっと、その考え方をすることは、そうできる人は、きっと優しい人で、毎日、とても傷ついているのではないだろいうか。 そんなことを思いました。
木漏れ日が平等だった。しんでも、いきても同じく、まだらに明るいよ、ひかりには、ぼくらのことなんて何ひとつ見えていないんだろう。それでも、それで、ぼくは死ぬのが怖くなくなる
木漏れ日が平等だった。しんでも、いきても同じく、まだらに明るいよ、ひかりには、ぼくらのことなんて何ひとつ見えていないんだろう。それでも、それで、ぼくは死ぬのが怖くなくなる
どうやらタヒさんは、生と死を同一視する傾向があるようです。 ここでは、ひかりという絶対的に客観的な概念を用いることで、タヒさんの考えを強化しようとしていることがうかがえます。 それとは別に、僕はこの文の語感がとても優しいことに救いを感じました。西洋の墓地に光が降り注いでいるイメージを想起しました。 情緒あふれるとても素敵な言葉です。
愛をたいせつにするひとは、あいを しらないひとに冷たいね
愛をたいせつにするひとは、あいを しらないひとに冷たいね
タヒさんは愛を強要する人に反抗します。 そこまで、みじめになったおぼえはないと。 それよりも戦争やながされた涙で、そのひとたちのこころがうるおえばいいと、この詩では表現されています。 これは、言葉そのままの意味だと思います。 皆さんもきっとそういう人に出会ってきたことがあるでしょう。 彼等は少し歪んでますよね。 僕はそう思います。 だって、自分の価値観を押し付けて、それを悪いことだと思わない、むしろ理解しないひとを見下すなんて、とても傲慢だと思います。 自分の人生を生きるとは、そういった人たちとの闘いでもあると思います。 そのことを、とてもシンプルに表現しているこの言葉が僕は好きです。
『空が分裂する』はこんな人におすすめ!



あとがき:空が分裂する
今回は、最果タヒのイラスト詩集『空が分裂する』で僕が気に入った7つの言葉を紹介してきました。感想というか解釈は、とても稚拙だったと思いますが、最後までお読みいただきありがとうございます。これからも、最果タヒさんの作品はどんどん取り上げていきたいと思います。
-
【おすすめ詩集】詩人「最果タヒ」とは何者か?【ランキング】
詩人「最果タヒ」。近頃、この名前を耳にする機会も増えたのではないでしょうか?「サブカル界隈で有名らしい」とは知りつつも、彼女の正体・作風については、未だ謎⋯。本記事では、最果タヒの詩の作風に迫るとともに、「全詩集おすすめランキング」を紹介します。
続きを見る