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■ 【書評】『渦森今日子は宇宙に期待しない。』(最果タヒ)が伝える非日常的平凡世界

2017年6月23日

『渦森今日子は宇宙に期待しない。』(最果タヒ/新潮文庫nex)の読書感想文です。本ブログでも度々とりあげているカリスマ詩人「最果タヒ」の小説になります。あらすじと感想・考察(ネタバレなし)を書きます。

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詩人「最果タヒ」。 近頃、この名前を耳にする機会も増えたのではないでしょうか。サブカル界隈で有名らしい⋯そんな話は知りつつも、彼女の正体・作風について、よくわからない人が大多数ではないかと思います。この記事では、「最果タヒ」とは何者か? その素顔について迫りたいと思います。

『渦森今日子は宇宙に期待しない。』のあらすじ

渦森今日子17歳、アイスが好きな女子高生。 一見どこにでもいそうな感じだが、実は彼女は宇宙人である。 あ、でも、侵略にきたとかではない。 弱小サークル宇宙探偵部のメンバーは、今日子が宇宙人であることを知っている。 しかし、誰一人気にしていないという不思議な状況。 今日子は、大好きな友達(岬ちゃん、柚子ちゃん)と一緒に、部活動、体育祭、夏合宿と青春を謳歌する。 ただ、そんな今日子も将来に対して不安を感じている。 この不安は、女子高生だから? それとも宇宙人だから? ゆみゆめかわゆい青春小説。
*以下多少のネタバレあり。未読の方はご注意ください。

『渦森今日子は宇宙に期待しない。』の感想・考察(多少ネタバレあり)

矢継ぎ早にまくしたてる言葉の数々

この作品でまず、面白いのは、言葉のテンポが高速かつツッコミが鋭いところです。例えば、オカルト好きの部長が大好きな岬ちゃんに対する描写。

 ・・・岬ちゃんはなんだか小刻みに震えだしているし、爆発寸前の電子レンジみたい(見たことはない、空想はいつだって十代の武器)。 でも冷静に考えて、岬ちゃん。 部長がオカルトに飽きるのは別に良くない? むしろ良くない? っていうかそもそも部長に惚れるのもうやめたほうが良くない? で、もちろんそれを口にはできない。 岬ちゃんはオカルトなんてどうでもいい今時の女子であるのにそのへんの寂しがりや女子が私実はね〜テレパシーが受信できるんだぁ〜、とか構ってほしそうに言っていたら本気にしたのか万が一にかけたのかわざわざ話を聞きに行って、部長に紹介したりしていたのだ(もちろん部長が気持ち悪いからそういう女子はすぐに逃げ去る。) 部長がまともでなんのとっかりもない奴になってしまったら、えーっと、アプローチのしようがないね!

 こういった描写は、作品のあちこちで見ることができます。 そして、最果タヒの文体の特徴と言ってもいいでしょう。 小説じゃなくて詩集でもこの特徴が見られます。 例えば、以下の記事を読んでみてください。 鋭い言葉が矢継ぎ早に読者に迫ってくることを実感できるはずです。

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 どうでしょう? なんとなく伝わるでしょうか? この文体は非常に面白いのですが、それが読みにくいと感じる読者さんも一定数いるようです。 僕は読みにくいという印象は受けませんでしたね。 ただ、ペースが早いので、頭をフル回転させながら、本を読むことになるので、読後にけっこう疲労感を感じました。

日常に溶け込む宇宙人という設定

今日子が宇宙人としてあまりに受け入れられているのも、興味深いです。 例えば、今日子に対して「メソッドD2」というあだ名をつけているのも、シュールで面白い。 一般的に「宇宙人」というともっとシリアスな文脈で描かれると思うのですが(エイリアンとかプレデターみたいな)、今日子は普通すぎるくらい普通の女子高生です。 なんの害もありません。 ちょっと運動神経がずば抜けて高いけれども、それだけです。 そこが、かなり斬新なジャンルだなと思いました。

特別じゃない。普通の悩みもある

一見、何にも考えていなそうな今日子の友達も、実は進路のことをきちんと考えていたりして、今日子は焦りを感じます。 自分には明確なやりたいことがない、と。 ただ、この不安は、今日子が宇宙人だから生まれるものではなくて、もっと普遍的な、彼女の年頃の男女が通常に抱えている悩みと同じだと思います。 そういう意味でも、彼女は決して特別だという風には描かれていません

 なんとなく思うのですが、最果タヒさんは読者に対して「未知に対する恐れ」は、知らないが故に生じているもので、ちゃんとその人(モノ)のことを知れば、自分とそんなに変わらない普通の人なんだよっていうメッセージを発しているように思いました。 最果さん自身、かなり人とは違う感性やキャリアを持っていて、いかにも特別な存在という風に見えるけれど、そのように扱われるのが嫌で、自分だって、普通の女の子なんだと感じていたとしても、不思議ではありません。 そのあたりの思いが、この小説には込められているのかなーっと、根拠はないですけれども感じました。

 まとめると、この作品の楽しみ方は、

  1. 宇宙人のいる青春小説という新しい角度から作品を読む
  2. 切れ味するどくテンポの早い言葉から得るシュールな笑い
  3. 十代の女の子が感じる将来に対する漠然とした不安と成長

という3つに集約されるのではないかと思いました。 これから読むよっていう方はこの辺りにちょっと注目して読むといいかもしれませんよ。

『渦森今日子は宇宙に期待しない。』はこんな人におすすめ

  • 最果タヒさん詩集じゃなく小説を読んでみたい人
  • ゆめかわいくて不思議な青春小説を読みたい人
  • オカルトや超常現象に興味がある人

あとがき:渦森今日子は宇宙に期待しない。

『渦森今日子は宇宙に期待しない。』(最果タヒ/新潮文庫nex)の読書感想文でした。最果タヒ作品の感想を書くのってなかなか難しいです。 全体から部分というよりも細部の積み重ねで作品が成り立っているように思えるので、一般化することが困難なんですよね。 ちょっと出来はイマイチだったかもしれませんが、最後までお読みいただきありがとうございました。

♦︎最果 タヒ(さいはて タヒ)
1986年兵庫県神戸市生まれ。
京都大学出身。

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