最果タヒ

■ 『十代に共感する奴はみんな嘘つき』

投稿日:2017年5月16日 更新日:

はじめに

『十代に共感する奴はみんな嘘つき』(最果タヒ)感想.

 「最果タヒ」さんの小説を初めて読んでみました。

 僕の大好きなSSW・大森靖子さんが押している「カリスマ詩人」ということで、非常に興味を持っていました。

 その才能を今回、垣間見ることができたと思います。

 最果タヒさんのプロフィールは以下の記事を参考にしてみてください!

【特集】カリスマ詩人「最果タヒ」とは何者か? その素顔に迫る – 積ん読と感想わ

『十代に共感する奴はみんな嘘つき』

あらすじ

 主人公は17歳の女子高生・和葉。

 隣のクラスの沢くん(陸上部)に告白するも、「まあいいよ」という気のない返答に激怒、「やっぱやめよう」と撤回するところから物語は始まる。

 和葉と沢は、放課後の教室に1人残って掃除をしていたヘッドフォン女子の初岡に声をかけ、3人の奇妙な関係ができていくのだが……。

(amazonレビュー より)

感想

 感情はサブカル。現象はエンタメ。
 つまり、愛はサブカルで、セックスはエンタメ

 冒頭の二文です。

 これをみた瞬間に、「あぁ、きっと、僕はこの本が好きになるな」と思いました。

 そして、読んでみて「やっぱり、好きになった」。

 
 
 特徴的なモノローグ文体は初めてタヒさんの言葉に触れる人にとっては、難解なパズルを前にしているよう。

 さらに、思考のテンポが早いこと早いこと。

 けれど、どうしてだろう、紡がれた言葉は、頭で理解するよりも早く、心にストンと落ちてくる

 これが、「カリスマ詩人」の描く小説かと、その才能にただただ畏怖の念を覚えました。

 
 
 『十代に共感する奴はみんな嘘つき』は、複雑な小説です。

 しかし、それは、ストーリーが複雑だからではありません。

 むしろ、ストーリーはありがちで特筆すべき点はありません。

 では、何がこの小説を複雑化させているのか、それは、

  • 思考の掘り下げレベルが高いこと
  • 描写力が極めて繊細で精緻なこと

に起因すると僕は考えます。

 
 
 まず、「思考の掘り下げ」が行われている箇所を紹介しますね。

夜もやっているケーキ屋さんだけが、きっとまともな社会なんだろう。それがないから兄は壊れて、結婚したいとか言い出した。でもそこにあったのは愛じゃないでしょ。混乱でわけがわからなくなって、それでも「愛して」って言葉だけは似合いそうだから、そして具体的に言わなきゃパニックの自分に殺されてしまうから、だからとりあえずそう言っているだけ。結婚して。愛して。とりあえずで欲しがって、とりあえずで成立している。私、本当は月が故郷なんです。かぐや姫ってことにして、月食の隙に帰りたい。ヘドロしかないような海の底でそれでもビッチは何も考えていないみたいに、ニコニコ笑っていて、不安になるんだ。私は17年間、命は大事、人の気持は尊重しなさいと教えられて信じてきたけど、でも、みんななんにも考えていないのかもしれない。空洞。沢くんの「まあいいよ」を思い出した。私たちはもう、空洞を愛ってことにしないといけないのかな。まあいいよ、まあいいよ、の愛。

 どうでしょうか。

 ここでは「愛」の本質は「空洞」ではないかと述べています。

 なぜなら、それがとりあえず落ち着きそうだから

 この、考察をするにいたるタヒさんの思考の切り口の鋭さは下を巻くものがあると思います。

 
 
 次に、「描写力の繊細さ緻密さ」がよく現れている箇所を引用します。

上履きを履き替えて、校舎を出たらびーっと赤い光が西から東に飛んでいる。下校時に歩くところはすべて坂道で、光のたまったプールに転がり落ちていくようなものだ。住宅街だしビルがないし、光はどこまでも届いているし、白くなった家の壁がどれも新築みたいに見えた。私の右側もぜんぶこうやって生まれたてみたいに白くなっているならいいけど、たいしてまぶしくもないからそんなことはないんだろう。風が吹いてスカートが揺れることだとかそういうのがどうだってよくなるぐらい、木々がゆさぶられガサガサ言うし、突風の間だけ、森に暮らす小人の気分。

 この文章は「カリスマ詩人」の本領発揮といったところでしょうか。

 「光」と「私の気持ち」が対比されて儚げに聴こえる部分。

 すごく美しいと思いました。

 
 
 『十代に共感する奴はみんな嘘つき』でタヒさんが一番主張したかったことはタイトルにあらわれています。

 つまり、「過去の自分を勝手にまとめて、それで終わりにしないで」ということです。

 このメッセージを受け取って僕はハッとしました。

 確かに、僕は十代の頃の自分をある意味、象徴的にまとめ上げて、それを自分の心の引き出しに勝手にしまって、それを都合がいい時だけ見せる。

 要するに、過去の自分に大して敬意を払っていないことに気づいたからです。

 僕が過去の自分を振り返り、思考を辿ろうとしてみたところで、それはもう不可能なわけで。

 だったら、せめて、それが無理だってことを認めて、それを大事にしようよ、というのがこの作品の大きなテーマだったんじゃないかなあと思います。

 
 
 とにかく、ユニークで切れ味するどい文章でした。

 やっぱり、大森靖子さんの歌詞とちょっと通じるところがあるなあと僕などは思いました。

こんな方におすすめ

  • サブカルっぽい小説が好きな人
  • 十代で複雑な心を抱えている人
  • 過去の自分と向き合ってみたい人

あとがき

 最果タヒさんの『十代に共感する奴はみんな嘘つき』の感想を書きました。

 この本は僕にとって衝撃的でした。

 今後もタヒさんのご活躍を見守りたいと思います。

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