ミステリー

■ 【書評】『紫のアリス』(柴田よしき)_迷宮のようなあやふやな物語

『紫のアリス』(柴田よしき/文春文庫)の読書感想文です。「書店員が選んだもう一度読みたい文庫:イッキ読み部門」第1位。とにかく話の結末が気になってしょうがないミステリー小説でした! あらすじと感想・考察(ネタバレなし)を書きます。

『紫のアリス』のあらすじ

会社を辞めた紗季が、夜の公園で見たのは、変死体と「不思議の国のアリス」のウサギ。 その日を境に、紗季のまわりでは、次々と不思議な事件が起きる。 古びたマンションに引っ越した紗季は、世話好きな老人・菊子と仲良くなる。 事件解決のため、奔走する二人だが、なかなか全貌を掴むことができない。 紗季は次第に自分の正気を疑うと同時に、記憶の違和感を感じ始める。 不思議の迷宮に彷徨いこんだ紗季に訪れる衝撃の結末とはーー?
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『紫のアリス』の感想と考察(ネタバレなし)

紗季のふわふわした心で描かれる世界

このお話は、とても「あやふや」です。 うん、その言葉がぴったり。 どういうことかというと、まず、立て続けに起こる不思議な事件が現実離れしていることが一つ。 特に「不思議の国のアリス」の登場人物たちが随所に出てくるところなんてかなり不気味です。 次に、主人公である紗季の精神がちょっとふわふわしてることです。 これは、物語を読み始めるとすぐに感じることです。

いっそ、死んじゃおうか。

そうだ・・・あたし、何でここにいるんだろう?

『紫のアリス』は紗季というフィルターを通した世界を描くはずなのに、その紗季自身の心が、こんなにふわふわしていて大丈夫なのか? と、読んでみて、まず最初に思ったことです。 結論から言って、この誰もが思うであろう疑問が、物語的にはかなり重要な伏線だったりします。

作品内に伏線がありすぎる

ミステリ的観点から述べると、話を読んでいて、違和感を感じるところが多々あります。 ん、それって、偶然ではありえないよね? とか、この人なんだかおしゃべりすぎないかな? とか。 要は、フラグっぽいものが、ありとあらゆるところから見つけることができるんです。 つまり、事件を紐解く要素はいっぱいあるんです。 けれど、それが多すぎて、逆に絞りきれないというか、そこから一つのストーリーを浮き彫りにさせることが、難しいんです。 そして、前述した紗季のふわふわした心のフィルターを通しているので、もう、まさに、迷宮状態です。 でも、そんな迷宮状態に陥るので、どんどん先のことが知りたくなり、気づいたらイッキ読みしているという、そんな作品となっております。 きっと著者の方の狙い通りですね。

現実と妄想の区別って実は曖昧⋯⋯?

みなさんは現実と妄想の区別がつかなくなることってありますか? 」『紫のアリス』では、両者の境界線が非常にぼかされていて、判別しにくくなっています。 それは、特殊な例なんじゃないかと思う人は恐らく多いと思います。 でも、それって、本当に特殊なのかなって、個人的には思います。 例えば、自分の思い出を美化して、さも事実であると信じ込むようなことって、一般的じゃないですかね? そういう意味では、現実と妄想の区別って思っているよりも曖昧なんじゃないのかな。 この作品を読んでそう思い、少し自分の正気が怖くなったのでした。

『紫のアリス』はこんな人におすすめ

  • 「あやふや」な世界観を味わいたい人
  • 普通のミステリでは、ちょっと物足りない人
  • 「不思議の国のアリス」が好きな人

あとがき:紫のアリス

『紫のアリス』(柴田よしき/文春文庫)の読書感想文でした。『紫のアリス』の面白いところは、不気味な迷路を目隠ししながら歩いて、ゴールにたどり着いたものの「そこが本当にゴールなのか?」 「そもそもなぜ迷路の中にいるのか?」 それらが説明できない「あやふやさ」にあると思います。 こんな狐につままれた読後感を感じる作品はなかなかないと思います。 その点、非常に魅力的でした。

♦︎柴田 よしき(しばた よしき)
1959年東京の下町生まれ。
青山学院大学文学部フランス文学科卒業。
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