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●【書評】『ショートカット』(柴崎友香)_距離・時間・空間を拡張する試み

2017年6月30日

『ショートカット』(柴崎友香/河出文庫)の読書感想文です。ショートカットは、彩鮮やかな連作小説集になっています。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。

『ショートカット』のあらすじ

「恋愛」における「距離」という概念を巧みな表現力で拡張した連作小説集。「ショートカット」、「やさしさ」、「パーティー」、「ポラロイド」という4編から成り立っています。”なかちゃん”という男性が唯一、どの作品にも登場しています。

『ショートカット』の感想と考察(ややネタバレ)

作品にいい意味で集中できない

本を読み終わった後、解説を見ていたら、作品を読んでいる時にも、他のことをあれこれ考えてしまう点が素晴らしいと書かれていました。

確かに、その通りでした。

僕も、読みながら、いろいろと空想に耽っていました。

なぜ、そうなるのかを考えてみます。

この小説集に出てくる主人公(全員女性)の思考がかなり、定まってないのです。

それが、読者である僕たちにも影響してくるのです。

簡単にいいましたが、彼女らの思考と読者の思考をシンクロさせる技術は、決して意図せずできるような所業ではないと思います。

この点が、柴崎友香の技術力の素晴らしいところであることは間違いありませんね。

柴崎友香の文章を一言であらわすと⋯⋯?

僕は、柴崎友香の「ビリジアン」を読んだ時、確かに作品から何とも形容し難い感慨を得ました。

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主人公は山田解(かい)です。『ビリジアン』は連作短編(20編)。 物語は、解の10歳から19歳の記憶を断片的に行ったり来たりする形で綴られています。 舞台は大阪、京都。 特にこれといったストーリーは存在せず、日常の些細な出来事に関する記憶を描写しています。 それぞれのエピソードの中に、描かれている年代や解のプロフィールに関するヒントが散りばめられており、読者はそれらを結び合わせることで、一つの文脈が浮き上がってきます。

そして、この作品からも同じような印象を受けました。

「この感覚は何だろう?」、とずっとつかめずにいたのですが、ようやく言語化できる気がします。

それは、柴崎友香の文章がとても”Cool“だということです。

ここで、英語の”Cool“をあえて用いるのは”カッコイイ”とう言葉とは、ちょっとニュアンスが違う気がして、もっとこう、さり気ない感じで、垢抜けている感じの”カッコイイ”という意味を表したかったからです。

ぜひ、本書を手にとって、「ショートカット」の結末を読んでみてください。

そうすれば、僕の言おうとしていることは、自ずと伝わると思います。

なかちゃんというキャラがユニーク

“なかちゃん”はちょっと得体が知れないキャラクターです。

特徴は、ちょっと伸びた坊主頭で黒目が大きくカメラを撮ることです。

「ショートカット」の中では、執拗に

 「なあ、おれ、ワープできんねんで、すごいやろ」

と繰り返しているあたり、狂気を感じます。

それぞれの話の主人公は”なかちゃん”と比較的、友好な態度をとっていますが、僕だったら、あまり関わりあいを持ちたくないタイプです。

でも、人ごとだから、読んでいて、面白かったです(笑)

距離・時間・空間を拡張する試み

 
みなさんは遠距離恋愛をしたことはありますか?

この作品では、舞台の中心が大阪で、恋人が東京にいるという設定がほとんどでした。

なんとなく、「距離」、「時間」、「空間」という概念が、作品中では、拡張されていたように思います。

これは、文学だから表現できることであり、現実ではあり得ないことです。

ただ、それらの概念の持つ曖昧さを再認識させられたような感覚です。

しかしやはり、現実的には隔たりは大きいと改めて思わざるを得ませんでした。

ここらへん、難しいところですね。

『ショートカット』はこんな人におすすめ

  • 「遠距離恋愛」をしている人
  • 距離・時間・空間の概念を問い直したい人
  • 形容し難い読後感を味わいたい人

あとがき:ショートカット

『ショートカット』(柴崎友香/河出文庫)の読書感想文でした。ショートカットを読んで、柴崎友香の文章力は本物だと確信しました。もっと柴崎友香の作品を読み込んでみます。

柴崎 友香(しばさき ともか)
1973年大阪府大阪市大正区生まれ。
大阪府立大学総合科学部国際文化コース人文地理学専攻卒業。

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