純文学

●春の庭/柴崎友香_「箱 × 中身 = 文脈(コンテクスト)」の世界

モロケン

未経験からフリーライターとして独立、起業。日給500円から始めて今では1記事5万円も珍しくない。いつまでも純粋さを大切にしたい。

第151回芥川賞『春の庭』(柴崎友香/文春文庫)の読書感想文です。柴崎友香の作品の中でも難解な部類に入ります。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。

『春の庭』のあらすじ

あらすじ

部屋の名前が干支という一風変わった古いアパートに住んでいる太郎は、裏にある水色の洋館に並々ならぬ関心を寄せている同じアパートの住人・西と出会う。西がその家に執着する理由は、その家が西の持つ「春の庭」という写真集の舞台だった。面倒なことは避けたい性格の太郎だが、西の思いの強さに押され、協力的な態度をとるようになる。

『春の庭』の感想と考察(ややネタバレ)

「春の庭」の解釈はとても難しいです。
読んでいる時にも思ったし、読後に色々な感想を読んでいる時も思いました。
したがってここでは、僕が感じたことをそのまま書き連ねたいと思います。

「箱」と「中身」の組み合わせが文脈(コンテクスト)を作る

『春の庭』のテーマは、「住居」であるようにも思いますが、もう少し普遍性が高いと思います。本質的には、「「箱」と「中身」があって、それらを組み合わせるごとに異なる文脈(コンテクスト)を持つことになる」ことが描かれています。

例えば、水色の洋館も、牛島タローと馬村かいこが住んでいた時と、森尾夫妻が住んでいた時とでは、全く違う顔を見せます。それは、太郎と西の目からも明らかでした。また、物々交換が多いことも、作品を読んでいて、気になりました。西のお礼にもらった鳩時計が太郎のもとでは必要とされず、沼津(元同僚)の妻のもとでは可愛がられる。そして、そのまたお礼にもらった海産物は太郎のもとから西へと森尾夫妻へと移動していきます。これらの場合「」となるのは、であったり人間であったりします。

日常にヒビが入る瞬間がある

 
作品を読んでいて「ん?」と思った部分があるので、引用します。

 水色のあの家も、芸能人が住んでいるのかもしれない、と太郎は考えた。

 「辰」室の女は、その芸能人の熱狂的なファンか、もしくはただ興味本位で覗いているだけか。

 どちらにしても、だとしたらつまらない解答だった。

「辰」室の女というのは西のことです。
ここで、淡々とした日常を過ごしていただけの太郎が、わずかですが、「何か面白いことが起こればいい」という気持ちを孕んでいるということがわかります。

 これは、僕にとって意外でした。

 むしろ太郎は、そういった想定外の出来事が起こることを忌避する性格のように思えたからです。
結果として、西と関わるようになって、太郎には、ちょっとした非日常が訪れるようになるのですが、この部分がちょうど、日常にヒビがはいる瞬間だったのではないかと。

こういう日常の描写の中に、予兆めいたものを孕ませる技術は、柴崎友香の作品の特徴のhito
つであると思いました。

 
ストーリー自体は、特に大きな出来事は起こりません。ただ、伏線が多く張られており、解決は完全に読者の手に委ねられています。この「描ききらない」姿勢も、柴崎友香の特徴のひとつだと以下の記事で述べました。

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僕は、伏線回収にそんなに興味があるわけではないので、余韻だけ味わえれば良いのですが、気になる方は、ぜひ自分独自の解釈を考えていただくと良いと思います。きっと正解などないのでしょう。

評価:『春の庭』はこんな人におすすめ!

パリピ
他人の住む家に興味がある!

ふんわりとした読後感を味わいたいな⋯。
サブカル

文学青年
ちょっと難解な作品を読み解きたい気分かも⋯。


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あとがき:春の庭

『春の庭』(柴崎友香/文春文庫)の読書感想文でした。さすが芥川賞をとった作品だけあって、深みのある作品です。柴崎友香にはこれからも、良い作品を書き続けていってほしいです。

まとめ
【おすすめ】芥川賞受賞作家・柴崎友香の作品をランキング形式で紹介!!

柴崎友香のおすすめ作品をランキング形式で紹介しています。本選びに悩んでいる方はぜひ参考になさってください。

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