はじめに
住野よるさんの第三作目にあたる『よるのばけもの』(2016)について、記事を書きたいと思います。 前半はあらすじ、テーマ、評価(ネタバレなし)、後半は感想・考察(ネタバレあり)、を述べたいと思います。 未読の方は本選びの参考に、既読の方は考えの整理に、本記事を使ってもらえると嬉しいです。
『君の膵臓をたべたい』(一作目)と『また、同じ夢を見ていた』(二作目)がとても面白かったので、本作も間違いないだろうと思い購入しました。 表紙もカッコいいですしね!
ここで、住野よるさんのツイートを紹介。
「君の膵臓をたべたい」と「また、同じ夢を見ていた」は誰かに呼んでほしくて書きました。「よるのばけもの」は出会ってくれた皆さんに読んでもらいたくて書きました。
— 住野よる (@978410350831_1) December 5, 2016
正直、何を言っているのかよくわからないです笑 ごめんなさい。。。 でもきっと、前の二作とは、心構えが違うってことなのかな?
「よるのばけもの」あらすじ
夜になると、僕は化け物になる
p5より
そう、主人公の中学生・安達は、夜になると、黒い体、六つの足、八つの目玉を持つ「化け物」になるのです。 体のカタチを思う通りに変化させることもできます。 普段は深夜の街を散歩したりしているのですが、ある日、学校に宿題を忘れたことに気づき、それを取りに行きます。 当然、他に誰もいないだろうと、教室に忍び込んだのですが。 なんと、
「びびびびびびびび、びっくりし、たぁ」
p13より
先客がいました。 クラスメイトの矢野さつきです。 姿を見られただけで激しく狼狽した安達ですが、彼女が放った言葉により、さらに驚愕することになります。
「あっちー、くんだよ、ね」
p15より
奇妙なイントネーションを持つ彼女に、いきなり正体を見破られました。 どうして? そんな言葉が安達の頭に浮かびますが、認めないと正体バラすよ、と言われた僕は、彼女にとっての秘密の時間「夜休み」に付き合うことになります。
矢野さつきについて、重要なことを述べます。 彼女はクラスでいじめられています。
「おはよ、うっ」
p23より
律儀に毎朝挨拶をしても、誰も彼女に返事をする人はいません。 彼女は、教室で完全に浮いた存在なのです。 安達も勿論、矢野を無視していましたが、「夜休み」に付き合うようになってから、彼女の行動を意識するようになりました。
これが、よるのばけもの・安達と、いじめられっ子・矢野との間の不思議な物語の幕開けでした。
「よるのばけもの」のテーマ
作品のテーマは大きく分けて2つあると思います。
[テーマ①]いじめ
前述したように、矢野さつきはクラスでいじめられています。 そして、クラスメイトはその原因が矢野自身にあると考えています。 その根拠となるのは、ある1つのエピソードです。 それは、クラスでも大人しい生徒の緑川双葉の読んでいた本を、雨が降っている中庭に投げ捨てたというものです。 緑川は泣きました。 彼女にとって、それはとても大切な本だったのです。 そして、クラス中が矢野を責めるようになった理由は、泣いている緑川のそばで矢野が、「にんまりと」笑っていたからです。
[テーマ②]主人公の心情の変化
化け物の姿で「夜休み」を矢野と一緒に過ごすようになった安達の心は揺れています。 それは、矢野のことを知れば知るほど、彼女がいじめられていることに対して、疑問を感じ始めていたからです。 しかし、昼の学校では、矢野に対する態度を変えるわけにはいきません。 その葛藤が、安達の一人称が昼と夜では違うということに現れています。 そして、主人公の心情は変化していきます。 それがどのようなものかは、ぜひ本書を手にとって、読んで見てくださいね!
みんなの感想
住野よる「よるのばけもの」読んだよー
とりあえず感想としては、俺みたいに大人ぶってスカした顔して傍観者気取って無関係ってスタンス貫いてた大多数はゲロ吐きそうになるくらい腹ん中グチャグチャになるんじゃないかな?これを結末だけ見て「良い話し」だなんて言う無神経さは俺には無い— Mr.ボーン (@honetoken) December 19, 2016
住野よるの「よるのばけもの」読了。
この人の小説に共通しての感想だけど、まず、主人公女の子がすごい独特な魅力的なキャラクターしてる。今作もそれはそれは
あと、心臓抉ってー くるセリフが突然やってくる
しかも言葉がもう選び抜かれたセリフで「ヤラレタアアア!!」ってなる。#よるばけ— オ力ダ監督@名古屋 (@oka0366) December 9, 2016
感想ツイートするの忘れてた!共有。
住野よるさんの「よるのばけもの」住野さんがツイートなどで発信していた通り、読者へ寄り添った作品なのだと感じました。昼と夜。俺と僕。ザワつきと温度が残り、後ろの方にあるメッセージがとても素敵で、純粋に優しさを受け取りました☺︎改めて、本っていいね— 傳谷英里香 (@lespros_denchan) February 9, 2017
こんな人にオススメ!
- 「いじめ」「スクールカースト」に関心がある人
- 住野よるさんの他の作品とはちょっと違う魅力を楽しみたい人
- 思春期の少年の心の成長を見守りたい人
ここからは、ネタバレを含みますので、ご注意ください(^ω^)ノ
感想・考察(ネタバレあり)
『よるのばけもの』を読んで見てどうでしたか? けっこう回収されない伏線があって、モヤモヤしたんじゃないでしょうか? 僕はそうでした。簡単に並べて見ますね。
- 笠井に対する矢野の「彼は本、当にうまいよ、ね」(p144より)発言は何を意味しているのか?
- 緑川双葉の立ち位置が不明
- なぜ校舎の鍵が開いているのか・修復された蛍光灯
- なぜ警備員は誰もこないのか
- なぜ安達は化け物になったのか
それでは、順番に仮説を立てて行きましょう。
[伏線①]笠井に対する矢野の「彼は本、当にうまいよ、ね」(p144より)発言は何を意味しているのか?
矢野の発言は、何を意味しているのでしょう。もう少しヒントが必要ですね。さらに後半にいくと、矢野が笠井(おそらく)について言及している箇所があります。
「頭がよ、くて自分がどうす、れば周りがどう動、くか分かって遊んでる男、の子?」
p225より
あの寡黙な緑川も笠井について好ましくない印象を持っているようです。
「笠井くんは悪い子だよ」
p.183より
そして更に気になることは、笠井が安達に対して怪獣の話題をふる回数が多いことです。数えてみたら5回ありました(p29,p51,p101,p149,p188)。
矢野と緑川の意見をまとめると、笠井は「何でもお見通しで遊んでいる男」ということになります。 そして、怪獣の話を安達に対して、何度も持ちかけるということは、怪獣の正体について笠井はすでに知っていて、安達に怪獣の話をすることで、リアクションを楽しんでいるのではないか、という仮説が立ちます。 あくまで推測にすぎませんが、あり得なくはないと思います。
[伏線②]緑川双葉の立ち位置が不明
緑川の件ですが、これは笠井の場合よりもわかりやすいと思います。 以下、矢野の発言です。
「喧嘩しちゃっ、た元友達が、ひどいことされてて仲直りも出来な、くて、誰に対しても頷くだけしか出来、ない癖に責任を勝手に感、じて本人の代わりに仕返、しをして、る馬鹿なクラスメイ、ト?」
p225より
これで、矢野と緑川が昔友達であったこと、矢野がいじめられていることに責任を感じて仕返しをしていることがわかります。 つまり、高尾の自転車、野球部の部室、中川の上履きは、すべて緑川がやったものだと僕は思います。 答え合わせしたい。
[伏線③]なぜ校舎の鍵が開いているのか・修復された蛍光灯
これは完全に推測ですが、能登先生が絡んでいるんじゃないかと思います。 矢野がいじめられていると知っている彼女が、「夜休み」という特別な時間を味わわせてあげたいと思ったのではないでしょうか。 そう考えると、矢野と能登先生が非常に仲が良いことの説明にもなると思います。
[伏線④]なぜ警備員は誰もこないのか
これは、全くわかりません。どなたか教えてくださいませ。
[伏線⑤]なぜ安達は化け物になったのか
一番難しいところです。 僕の考えを述べます。まず、安達はとても優しくて繊細な人間なのだと思います。それゆえに、いじめに加担していること、自分のキャラクターを場の空気に合わせること、にたいして、潜在的に大きなストレスを抱えたのではないかと思います。 そして、そのストレスのはけ口として「よるのばけもの」という存在が生まれたのではないでしょうか。 昼は裏の顔、夜は表の顔を使うようになった安達は、最後に、昼も表の顔でいることを選択しました。このことによって、生じていたストレスが消滅して、それと共に化け物の存在は、いなくなるのではないかというのが僕の意見です。
あとがき
住野よるさんの第三作目となる『よるのばけもの』について、記事を書きました。最後の感想・考察は、ほとんど伏線回収の話になってしまいましたが、少しでも読んだ方のモヤモヤが消化されれば、嬉しく思います。次は、四作目の記事も書いていきます。 それでは、ここまで読んでいただきありがとうございます。