ミステリー

掏摸/中村文則_人間は運命に抗うことができるか?

モロケン

未経験からフリーライターとして独立、起業。日給500円から始めて今では1記事5万円も珍しくない。いつまでも純粋さを大切にしたい。

『掏摸』(中村文則/河出文庫)の読書感想文です。掏摸を題材にした小説というだけで興味をそそられますね。掏摸を生業とする主人公の男・西村の心理描写。掏摸の瞬間の緊張が読み手に伝わる情景描写。いずれも見事に描かれています。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。

『掏摸』のあらすじ

あらすじ

主人公の男・西村は、東京でスリを生業とする。彼のスリの技術は超一級で、孤独だが不思議な平穏の元、日々を暮らしていた。ところがある日、「木崎」という闇世界の住人と出会ってしまう。木崎に存在を知られたものは皆、掌で踊らされ悲痛な結末が待っている。西村は、自身の「運命」に光を見出すことができるのかーー?

『掏摸』のココが読みどころ!

ココが読みどころ!

  • 作中にたびたび登場する「塔」が象徴するものとは?
  • 心を閉じ暗い世界に居座り続ける意志を否定できるか?
  • 他人の運命を管理下におき快感を得ることはフィクションか?

『掏摸』の感想と考察(ややネタバレ)

モロケン
『掏摸』の感想文を書きます。ネタバレが嫌だよって人はコチラまで、進んでね!

自分にとって居心地がいい場所

僕は、指を伸ばしながら、あらゆるものに背を向け、集団を拒否し、健全さと明るさを拒否した。自分の周囲を壁で囲いながら、人生に生じる暗がりの隙間に、入り込むように生きた。しかし、僕はなぜか、それでもしばらくはここにいたいと思っていた。

西村には両親がいません。小さいころからスリをして生きてきて、施設に入っていたと推測できます。ひょんなことからスリの手ほどきをすることになる少年に、自分を投映し、施設に入ることを勧めています。世間から見たら、彼らは「可哀想」な人間でしょう。しかし、西村は自信の不幸な境遇に、居心地の良さをおぼえたのでした。

作中の「塔」は何を意味しているのか?

彼は、作中で「」について、何度も思いを巡らせています。自分の居た街には古びた「塔」がいつもあったと。そしてスリを重ね大人になるにつれ、「塔」が見えなくなります。「塔」は果たして何を暗喩してるのでしょうか?それは、「運命」でしょう。子供から大人へ成長していくうちに、人は自分の運命を切り拓いていくことができます。

絶対悪・木崎に出会った西村の運命

天才的なスリの技は、西村にとって剣(つるぎ)です。このまま彼は孤独だが静謐な生涯をおくるはずでした。
ところが、西村は、闇社会に生きる木崎に出会ってしまいました。

他人の人生を、机の上で規定していく。他人の上にそうやって君臨することは、神に似てると思わんか。もし神がいるとしたら、この世界を最も味っているのは神だ。

西村の友人・石川は、木崎の掌で転がされ無残に殺されました。

圧倒的な力を持つ木崎に西村は従うしかなく、彼の指示する仕事に対処することになります。万引きを強要する母親の息子の少年と、心が打ち解けていく予感の直後のことです。西村を待っていた結末は⋯⋯。あえて著者は明らかにしていません。ただ、後書きにも書かれていたとおり、物語は完結しており、読み応えは十分です。ちなみに、姉妹作の『王国』では、その後が明らかになる?

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美しき娼婦・鹿島ユリカの仕事は、社会的要人にハニー・トラップをしかけ、弱みを人工的に作り上げること。彼女は、親友の子供である翔太の難病の治療費を稼ぐために闇の世界に立ち入った。美貌を持つ彼女は、正体不明の組織に属する矢田から請負った仕事を完璧にこなしていた。しかしある日、彼女の運命を大きく左右する男と出会う。彼の名は、木崎。闇の世界を牛耳る木崎と矢田の利害の衝突により、命を狙われるユリカのスリリングな逃亡劇を描いた作品。

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『掏摸』はこんな人におすすめ!

モロケン
掏摸ってどんな職業なのかな?

運命は本当に存在するのだろうか⋯。
文学青年

サブカル
スリリングな物語で手に汗握りたい。


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あとがき:掏摸

『掏摸』(中村文則/河出文庫)の読書感想文でした。

『掏摸』は、運命という極めて重いテーマに、スリという切り口を絡めてストーリーにした稀有な作品です。中村文則の作品の中では、物語性が比較的強く、一気に読み切ることができます。

ぜひ未読の方はご一読を⋯。

モロケン
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