ミステリー

●【書評】『掏摸』(中村文則)_人間は運命に抗うことができるか?

2020年1月1日

『掏摸』(中村文則/河出文庫)の読書感想文です。掏摸を題材にした小説というだけで興味をそそられますね。掏摸を生業とする主人公の男・西村の心理描写。掏摸の瞬間の緊張が読み手に伝わる情景描写。いずれも見事に描かれています。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。

『掏摸』のあらすじ

主人公の男・西村は、東京でスリを生業とする。彼のスリの技術は超一級で、孤独だが不思議な平穏の元、日々を暮らしていた。ところがある日、「木崎」という闇世界の住人と出会ってしまう。木崎に存在を知られたものは皆、掌で踊らされ悲痛な結末が待っている。西村は、自身の「運命」に光を見出すことができるのかーー?

『掏摸』のココが読みどころ!

ココが読みどころ!

  • 作中にたびたび登場する「塔」が象徴するものとは?
  • 心を閉じ暗い世界に居座り続ける意志を否定できるか?
  • 他人の運命を管理下におき快感を得ることはフィクションか?

『掏摸』の感想と考察(ややネタバレ)

『掏摸』の感想と考察を書きます。ネタバレが嫌だよって人はコチラまで、進んでください。

自分にとって居心地がいい場所

僕は、指を伸ばしながら、あらゆるものに背を向け、集団を拒否し、健全さと明るさを拒否した。自分の周囲を壁で囲いながら、人生に生じる暗がりの隙間に、入り込むように生きた。しかし、僕はなぜか、それでもしばらくはここにいたいと思っていた。

西村には両親がいません。小さいころからスリをして生きてきて、施設に入っていたと推測できます。ひょんなことからスリの手ほどきをすることになる少年に、自分を投映し、施設に入ることを勧めています。世間から見たら、彼らは「可哀想」な人間でしょう。しかし、西村は自信の不幸な境遇に、居心地の良さをおぼえたのでした。

作中の「塔」は何を意味しているのか?

彼は、作中で「」について、何度も思いを巡らせています。自分の居た街には古びた「塔」がいつもあったと。そしてスリを重ね大人になるにつれ、「塔」が見えなくなります。「塔」は果たして何を暗喩してるのでしょうか?それは、「運命」でしょう。子供から大人へ成長していくうちに、人は自分の運命を切り拓いていくことができます。

絶対悪・木崎に出会った西村の運命

天才的なスリの技は、西村にとって剣(つるぎ)です。このまま彼は孤独だが静謐な生涯をおくるはずでした。
ところが、西村は、闇社会に生きる木崎に出会ってしまいました。

他人の人生を、机の上で規定していく。他人の上にそうやって君臨することは、神に似てると思わんか。もし神がいるとしたら、この世界を最も味っているのは神だ。

西村の友人・石川は、木崎の掌で転がされ無残に殺されました。

圧倒的な力を持つ木崎に西村は従うしかなく、彼の指示する仕事に対処することになります。万引きを強要する母親の息子の少年と、心が打ち解けていく予感の直後のことです。西村を待っていた結末は⋯⋯。あえて著者は明らかにしていません。ただ、後書きにも書かれていたとおり、物語は完結しており、読み応えは十分です。ちなみに、姉妹作の『王国』では、その後が明らかになるとか。

こちらも読むのが楽しみです。

評価:『掏摸』はこんな人におすすめ

評価

掏摸ってどんな職業なのかな?

運命は本当に存在するのだろうか⋯。

スリリングな物語で手に汗握りたい。

中村 文則
1977年愛知県東海市生まれ。
福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。

あとがき:掏摸

『掏摸』(中村文則/河出文庫)の読書感想文でした。

『掏摸』は、運命という極めて重いテーマに、スリという切り口を絡めてストーリーにした稀有な作品です。中村文則の作品の中では、物語性が比較的強く、一気に読み切ることができます。

ぜひ未読の方はご一読を⋯。

中村文則おすすめ作品

第一位:『遮光』

主人公の男の恋人・美紀は事故で死んだ。しかし、周囲には美紀の死を伝えず、今でも美紀が生きているように嘯く。男は、黒いビニールで覆われた小瓶に異常な執着をみせ、常に持ち歩く。虚言癖の青年の恋愛と狂気が紙一重で、揺れ動く様を描いた傑作。

ココが読みどころ!

  • 主人公が大切にする黒い袋の中の小瓶の正体とは?
  • 行き場のない狂おしい愛を抱えた男の末路とは?
  • 主人公が虚言を吐き、演技を続ける理由とは?


第二位:『掏摸』

主人公の男・西村は、東京でスリを生業とする。彼のスリの技術は超一級で、孤独だが不思議な平穏の元、日々を暮らしていた。ところがある日、「木崎」という闇世界の住人と出会ってしまう。木崎に存在を知られたものは皆、掌で踊らされ悲痛な結末が待っている。西村は、自身の「運命」に光を見出すことができるのかーー?

ココが読みどころ!

  • 作中にたびたび登場する「塔」が象徴するものとは?
  • 心を閉じ暗い世界に居座り続ける意志を否定できるか?
  • 他人の運命を管理下におき快感を得ることはフィクションか?


第三位:『迷宮』

日置事件(通称:折鶴事件)は、1988年に東京都練馬区の民家で発生しました。日置剛史(45)、妻の由利(39)、そして長男(15)の3名が殺害され、長女(12)だけが生き残ります。殺人現場は、遺体を囲むように312個の折鶴が色鮮やかに配置されていました。弁護士事務所で働く新見は、この殺人事件の唯一の生存者である紗奈江と、偶然知り合い、関係を持ちます。そして、折鶴事件の真相を確かめるため、奔走します。そこで明らかになる真実と新見の抱える心の闇の行方はー?

ココが読みどころ!

  • さりげない狂気から滲み出てくる美しさの正体とは?
  • 折り鶴事件の真相を追いかける主人公の心情とは?
  • 架空の存在「R」は何を象徴しているのか?

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