純文学

遮光/中村文則_虚言を吐く男がもう叶わない恋を求め狂う

モロケン

未経験からフリーライターとして独立、起業。日給500円から始めて今では1記事5万円も珍しくない。いつまでも純粋さを大切にしたい。

『遮光』(中村文則/新潮文庫)の読書感想文です。『遮光』は中村文則の2つ目の作品で、「野間文芸新人賞」を受賞しています。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。

『遮光』のあらすじ

あらすじ

主人公の男の恋人・美紀は事故で死んだ。しかし、周囲には美紀の死を伝えず、今でも美紀が生きているように嘯く。男は、黒いビニールで覆われた小瓶に異常な執着をみせ、常に持ち歩く。虚言癖の青年の恋愛と狂気が紙一重で、揺れ動く様を描いた傑作。

『遮光』の感想と考察(ややネタバレ)

モロケン
『遮光』の感想文を書きます。ネタバレが嫌だよって人はコチラまで、進んでね!

『遮光』は、一見ただの意味なく陰鬱な、小説の一種というように、見てしまいがちです。しかし中村文則の作品は、心理描写が一味違います

物語の中心となるのは「小瓶」です。

  • 小瓶には何が入っているのか⋯⋯?
  • 小瓶は「私」にとってどういう存在なのか⋯⋯?
  • 小瓶はどうなってしまうのか⋯⋯?

主人公の心情を追いながら考えていきます。

なぜ主人公は虚言を吐き、演技を続けるのか

お前と話をしててもさ、何だか変な感じになるんだよなあ。どう言うのかな、俺はほんとにこいつと話してるのかなってさ、そういう気分になる時あるんだよ。お前の言葉は何か全部、中身がないっていうか、うわべっていうかさ、そういう風に聞こえるんだよ。

上の言葉はシンジという知り合いの言葉です。彼の洞察は非常に的を得ています。主人公は、気持ちよりも先に言葉が出てきます。そして、言葉に引っ張られて気持ちがついてきます。そのためか、口から出る言葉は嘘ばかりで、思ってもいないことを次々と言葉にします。虚言癖、といっても差し支えないでしょう。

では、なぜ主人公はこのようになってしまったのか?

両親が死に、引き取られた家族の父親に言われた言葉がきっかけです。

お前は親が死んだ子だ。それはこれから、様々な形でお前に不利に働くかもしれない。だからな、乗り越えられないなら、初めは振りだけでもいい。次の家に行ったら、それを乗り越えたように見せなさい。わかったか?人がお前をうっとうしく思う前に、自分からそうするんだ。

まだまだ子供の主人公には、真意がつかめなかったかもしれません。しかし、忠告通りに振る舞うと上手くいくことを経験し、
何かの振りをする癖がついたのだと考えられます。

小瓶の中身と一体化することは幸福なのか?

『遮光』をすでに読んだ方は、あの衝撃的ラストを知っているでしょう。

果たして小瓶の中身と一体化することは、
主人公にとって幸福だったのでしょうか?

これはつまり、狂気の世界に足を踏み入れてまでも、
失われた「愛」を取り戻そうとする行動
です。

『遮光』を最初に読んでいるうちは、主人公が恋愛に対して真剣な気持ちを持つタイプには見えませんでした。おそらく本人もそう思ってたでしょう。しかし、美紀を失ってはじめて、美紀を純粋に愛していたことを知るのです。

主人公の狂気は物語が進むにつれ増してきますが、演技ではない本心を徐々に取り戻していきます。これはなんと、悲しいことでしょうか。

もう二度と叶うことのない純愛と、
狂ってしまった男のこれから。

中村文則の作品らしい情緒を感じます。

『遮光』はこんな人におすすめ!

モロケン
小瓶の中身が気になってしょうがない!

恋愛と狂気の関係についてよく考えたい。
文学青年

サブカル
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あとがき:遮光

『遮光』(中村文則/新潮文庫)の読書感想文でした。

全体的に暗い雰囲気ですので、好き嫌いが分かれる作品かもしれませんね。

筆者は、中村文則の描く恋愛が好きです。
これからも作品をどんどん読んでいきます。

モロケン
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