柴崎友香

★ 『週末カミング』

投稿日:2017年7月6日 更新日:

はじめに

『週末カミング』 柴崎友香 2017年1月 角川文庫より 第143回芥川賞候補作「ハルツームにわたしはいない」収録. 非常にクオリティが高い短編集だと思いました。 日常を切り取ったような描写が特徴的。 あらすじと感想を書きます。

週末カミング

あらすじ

“週末”をテーマにした8編の物語からなる短篇集です。

「収録作品」

  • ハッピーでニュー
  • 蛙王子とハリウッド
  • つばめの日
  • なみゅぎまの日
  • 海沿いの道
  • 地上のパーティー
  • ここからは遠い場所
  • ハルツームにわたしはいない
ハッピーでニュー

31歳のわたしは風邪を引いた体で、年越しを迎えていた。

そこに、職場のあまり親しくない先輩から「泊めてほしい」と連絡が入る。

快諾したわたし、一人でいたはずの空間に他者が入り込むことに新鮮さを覚えた。

蛙王子とハリウッド

わたしは、妹の彼氏の友だちだという陽蔵のバイト先である「BOOK STORE」に来ていた。

そこは、洋書を扱う専門店で、幅広い年齢層の人々が訪れていた。

「働くってなんだろう?」そんな疑問がふと頭に思い浮かぶような作品。

つばめの日

姫路城に向かっていた女子3人の車から突然、白煙が立ち昇る。

救援が来るのを小さな食堂スペースで待っていると、目の前を黒い小さな影が横切った。

それは、燕だった。

わたしは、その姿をぼんやりと眺めた。

なみゅぎまの日

受験が終わったわたしと従姉妹のみず恵とカメラマンの高木は公園へと出かけた。

そこで、わたしがみたものは、池の中に潜む黒いかたまり。

高木は、その姿を必死に撮影しようとするがーーー。

海沿いの道

前日に行ったライブで騒音性難聴になった、わたし。

みーこと高木さんと一緒に縁日へと出かける。

そこで、わたしは、以前、家庭教師をしていた子の夫妻と遭遇する。

地上のパーティー

おれは、職場の同僚と高層ビル31階で催されるパーティーへと出かけた。

そこで「選択と集中」の意味を噛み締めた帰り道にラーメン屋へと立ち寄る。

その空間では、ばらばらのものたちが同時に存在していた。

ここからは遠い場所

アウトドア系の服と雑貨を売っているお店で働く、わたし。

休憩室で唐突にキラキラ系女子から「わたしのこと、覚えてないでしょう?」と詰め寄られる。

さて、彼女は一体誰だったのだろうかーーー?

ハルツームにわたしはいない

東京で暮らすわたしは、ハルツームの天気をいつも確かめている。

偶然や今という一瞬は、とてもかけがえがない。

そんなありのままの姿をフラットに描ききった傑作。

感想

以下、多少ネタバレありかもです。 未読の方はご注意ください。

「週末カミング」は、現代の日本人の働き方に対して、疑問符を投げかけているような気がしました。

 就職して最初にがっくりしたことは、春休みがないことと夏休みが五月の連休よりも短いことだった。

 この先、わたしには二度とあの長い夏休みはないのだと知って、それで突然わたしの子供時代というか青春時代というか、とにかくそれまでの時間が断ちきられて遠くなったと感じた。

「蛙王子とハリウッド」より

 世間は厳しいのか? テレビやネットで言われてるみたいに、必死で就職活動をして落ちまくった挙げ句、過労死しそうな労働条件の下でろくな給料ももらえずに働くしかないのか? わたしたちの世代にいいことはないのか? 未来とは暗いものなのか?

「なみゅぎまの日」より

 この感覚は僕らの世代では共有されている価値観で、それをしっかり描写できている点で、非常に現代的な作品だと思いました。

 「週末カミング」というタイトルからは、もっとほんわかしたものを想起したので、少し意外に感じました。

 柴崎さんが、僕らの世代が抱えている鬱屈した感情を代弁してくれるのは、とても嬉しく思います。

 
 僕が、柴崎さんの作品に特徴的だと思っている「空間」、「時間」、「場所」というテーマも本作でしっかりと追求しているところは、流石だと思いました。

 バカみたいに大量の人がいる渋谷で、その片隅のラーメン屋で、右側では絶賛舞い上がり中のカップルがどう見ても同じ味付け卵を交換し合い、左側では臨死体験をしようとしている女がチャーシュー丼を食い、歓迎されない店員が一生懸命働き、通りからごきぶりが入ってきて、デヴィッド・ボウイは最高だ。

 おれは、この世界で生きてる、と思った。

 いろんな人が勝手にいろんなことをやって、地球は勝手に回転して夜が来て、今日が終わっていく。

 この世界に、そのばらばらのものたちと同時に存在している。

「地上のパーティー」より

・・・誰かが目撃しなかったり気づかなかったりしたら、過去のそのできごとは存在しないのと同じなのか、それとも、誰も知らなくてもやっぱり存在したこと自体は消えないのか・・・

「ハルツームにわたしはいない」より

 こういった視点で世界を捉えると、今まで普通に見えていた日常が、まったく新しい世界のように、感じられると思います。

 「何げない日常」はそれだけですでに特別で、肯定されるべきで、柴崎さんは、そのことを作品を通じて、何度も何度も、読者に対して訴えかけます。

 そのメッセージを初めて理解した時、僕はそのスケールの大きい価値観に、救われたように感じました。

 こんな風に、感じさせられる作品は、なかなか出会えるものでは、ありません。

 そういった意味で、僕は柴崎さんという作家に偶然、巡り会えて良かったと、心の底から思います。

 過去の作品全てに目を通すのは、勿論ですが、彼女の今後の作品、作風の変遷を見守っていきたいです。

 本当に心に染み入る短篇集でした。

こんな方におすすめ

  • 「働くとは?」について、考えてみたい人
  • 日常という名の非日常を楽しみたい人
  • 柴崎さんの作風を理解したい人

あとがき

 「週末カミング」は、すごい短篇集だと思いました。

 僕は、あまり、短篇集を読むことは、好きではないのですが、この作品に関しては、本当に感銘を受けました。

 ですので、評価は★(5 point)とさせていただきます。

 今後も、長編、短編に関わらず、感想を上手く書けるように精進したいと思います^^

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