『週末カミング』(柴崎友香/角川文庫)の読書感想文です。第143回芥川賞候補作「ハルツームにわたしはいない」収録。非常にクオリティが高い短編集です。あらすじと感想・考察(ややネタバレ)を書きます。
『週末カミング』のあらすじ
あらすじ
「収録作品」
- ハッピーでニュー
- 蛙王子とハリウッド
- つばめの日
- なみゅぎまの日
- 海沿いの道
- 地上のパーティー
- ここからは遠い場所
- ハルツームにわたしはいない
ハッピーでニュー
蛙王子とハリウッド
つばめの日
なみゅぎまの日
海沿いの道
地上のパーティー
ここからは遠い場所
ハルツームにわたしはいない
『週末カミング』の感想と考察(ややネタバレ)
『週末カミング』は、現代の日本人の働き方に対して、疑問符を投げかけているような気がしました。
ミレニアル世代の鬱屈した感情を代弁
就職して最初にがっくりしたことは、春休みがないことと夏休みが五月の連休よりも短いことだった。この先、わたしには二度とあの長い夏休みはないのだと知って、それで突然わたしの子供時代というか青春時代というか、とにかくそれまでの時間が断ちきられて遠くなったと感じた。
世間は厳しいのか? テレビやネットで言われてるみたいに、必死で就職活動をして落ちまくった挙げ句、過労死しそうな労働条件の下でろくな給料ももらえずに働くしかないのか? わたしたちの世代にいいことはないのか? 未来とは暗いものなのか?
このような考え方は、僕らの世代(ミレニアル世代)で共有されている価値観であり、それをしっかり描写できている点で、非常に現代的な作品だと思いました。『週末カミング』というタイトルからは、もっとほんわかしたものを想起したので、少し意外でした。柴崎友香が、僕らの世代が抱えている鬱屈した感情を代弁してくれるのは、とても嬉しく思います。
かけがえのない日常の大切さを繰り返し描く
僕が、柴崎友香の作品に特徴的だと考えている「空間」、「時間」、「場所」というテーマも本作でしっかりと追求されていました。
バカみたいに大量の人がいる渋谷で、その片隅のラーメン屋で、右側では絶賛舞い上がり中のカップルがどう見ても同じ味付け卵を交換し合い、左側では臨死体験をしようとしている女がチャーシュー丼を食い、歓迎されない店員が一生懸命働き、通りからごきぶりが入ってきて、デヴィッド・ボウイは最高だ。おれは、この世界で生きてる、と思った。いろんな人が勝手にいろんなことをやって、地球は勝手に回転して夜が来て、今日が終わっていく。この世界に、そのばらばらのものたちと同時に存在している。
このような視点で世界を捉えると、普段の日常が、まったく新しい世界のように感じられると思います。
「何げない日常」はそれだけですでに特別で、肯定されるべきで、柴崎さんは、そのことを作品を通じて、何度も何度も、読者に対して訴えかけます。そのメッセージを初めて理解した時、僕はそのスケールの大きい価値観に、救われたように感じました。
このような体験は、めったにあるものではありません。だから僕は、柴崎友香という作家に偶然、巡り会えて良かったと、心の底から思います。過去の作品全てに目を通すのは、勿論ですが、彼女の今後の作品、作風の変遷を見守っていきたいです。本当に心に染み入る短篇集でした。
『週末カミング』はこんな人におすすめ
- 「働くとは何か?」について、考えてみたい人
- 日常という名の非日常を楽しみたい人
- 柴崎友香の作風を理解したい人
あとがき:週末カミング
『週末カミング』(柴崎友香/角川文庫)の読書感想文でした。僕は、あまり短篇集を読まないのですが、『週末カミング』に関しては、本当に感銘を受けました。評価は★(5 point)とさせていただきます。もっと柴崎友香の作品を読みたい⋯⋯!
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